本研究では、胎仔精巣に存在するライディッヒ細胞が脱分化して未分化な状態に戻った際に、ライディッヒ細胞としての分化記憶を保持しているとの仮説のもと、精巣間質細胞の遺伝子発現およびクロマチン構造を解明することを目標とした。 当初は細胞を集団として回収し解析することを計画していたが、研究期間中に、オープンクロマチン領域と遺伝子発現を単一細胞レベルで同時に解析する技術(single cell multiome)解析が可能となったため、研究計画を変更し、この解析を行うこととした。手始めに、正常マウス、および胎仔ライディッヒ細胞の分化を阻害したマウスの新生仔(生後10日目)精巣を用いて、単一細胞遺伝子発現解析を行なった。得られたデータを解析した結果、新生仔精巣に存在する細胞種(ライディッヒ細胞、セルトリ細胞、血管内皮細胞、マクロファージ、精巣間質細胞、精原細胞を含む精細胞)がクラスターを形成しているのが確認された。一方、2つ以上の細胞種のマーカー遺伝子を発現しているクラスターも検出されたことから、細胞の乖離が不十分であったと推測されたため、現在、実験条件の改善に努めている。これまでに得られた結果から、ライディッヒ細胞のクラスターが消失していたのに加えて、将来精子形成の源となる精原細胞の数の減少が認められたが、精巣間質細胞については、遺伝子発現パターンや細胞数に明瞭な変化を認めなかった。この結果から、胎仔ライディッヒ細胞の脱分化によって生じた細胞は、元から精巣間質に存在する未分化細胞と、遺伝子発現パターンのみでは区別できないと推測された。
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