研究課題
固形腫瘍において恒常的に活性化し、治療抵抗性を産み出し難治がんの原因の一つとなっているストレス応答性転写因子NRF2はどのように腫瘍の悪性化に寄与しているかは、不明な点が多い。本研究において、申請者はNRF2の恒常的な活性化が、従来から考えられていたがん細胞自身の特性の変化に加え、腫瘍微小環境における代謝環境を変化させることで、抗腫瘍免疫の抑制を誘発するという、NRF2活性化がん細胞が腫瘍微小環境へ作用している可能性を検証する。初年度にCre recombinaseにより肺がんを誘導できるマウス発がんモデル実験を開始していた。その結果、Keap1の同時欠損によりKrasG12D/+で誘導できた担がんマウスの生存率は有意に減少し、腫瘍面積は増大することが明らかとなった。一方で、NRF2依存性肺がん細胞が腫瘍免疫に関与するかを検証するために、C57BL6マウスに同種移植可能なNRF2依存性肺がん細胞樹立を試みた。まず不死化した肺上皮細胞が得られるかどうかを検討するために、C57BL6マウスの正常肺をcollagenase およびDNase Iでsingle cellにした後、上皮細胞を選択的に培養した後、培養皿に播種して自発的に不死化させた。この不死化させた肺上皮細胞にHRAS G12Vの変異体を発現させ、C57BL6マウスの肺に経気道的に細胞懸濁液を投与したところ、2週間ほどで腫瘍を形成し、かつ上皮細胞マーカーEPCAM陽性となる同種移植可能なマウス肺がん細胞を作製することに成功した。さらにKeap1を誘導的に欠損できるKeap1 flox/flox マウスより同種の上皮さいぼうを樹立することにも成功した。
2: おおむね順調に進展している
KEAP1欠損によるNRF2依存的な腫瘍形成能の向上が観察される肺がんモデルマウスを樹立して、肺がんを誘導したマウスにおいてKEAP1欠損させた場合、コントロール肺がんマウスと比較して、発がん後の生存率は減少し、腫瘍面積は増大することが明らかとなった。またこれらのマウスから、血清などのサンプル回収も効率よく行うことができた。またこれらの実験の一部成果については論文として成果発表を行うことができた。
これまでに発がんを誘導したマウスより調製した組織切片、血清などの解析を行う予定である。また引き続き発がん誘導実験を行い、NRF2が活性化しているがんを誘導したマウスでどのような免疫細胞のプロファイルが異なるかを解析する予定である。そしてこれらのマウス発がん実験で見出された事象の分子メカニズムを、樹立予定のNRF2依存性肺がん細胞で解析する予定である。具体的には樹立するNRF2依存性肺がんをC57BL6マウスの肺へ移植して、腫瘍を形成させて浸潤してくる免疫細胞の違いなどをフローサイトメータなどで解析する。またこれらの免疫細胞プロファイルがNRF2依存性肺がんのどのような代謝プロファイルによって生み出されていくかを検証する。
マウス発がんモデルの実験が順調に推移した他、C57BL6に同種移植可能な肺がん細胞の樹立も予定より順調に進んだため、少ない個体数でサンプルの取得ができたため、未使用額の使用につながった。次年度は樹立するNRF2依存性肺がん細胞をマウス細胞へ移植し、浸潤してくる免疫細胞を解析するための試薬や代謝物を解析するための実験に必要な試薬を購入する予定である。また、NRF2依存性肺がんに特徴的な硫黄代謝物の放出に関与する遺伝子を探索するスクリーニング実験にも研究費用を使用予定である。
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