研究課題
転写因子NRF2は固形腫瘍において恒常的に活性化しており、腫瘍形成能の上昇や化学療法、放射線療法に抵抗性を付与し、NRF2依存性の悪性がんを形成する。これまでに我々を含めた多くの研究グループはこのNRF2の恒常的な活性化による悪性化の原因として、酸化ストレスへの耐性向上や亢進する細胞増殖を支える代謝改変など、細胞自律的な効果であることを発見してきた。この様にNRF2依存性がんの治療にはNRF2の阻害剤が効果的であると考えられるが、担がん患者におけるNRF2阻害効果は抗腫瘍免疫効果を減弱させることから、NRF2依存性がんの治療にはがん細胞においてNRF2活性化の効果を間接的に阻害する方法もしくは、NRF2依存性がんに特徴的な腫瘍免疫プロファイルを同定して、NRF2依存性がんの悪性化をサポートしている腫瘍免疫群の機能阻害が有効な方法であると考えられている。本年度は公開されているヒト肺扁平上皮がんおよび肺腺がんのトランスクリプトームや免疫プロファイルのデータベースを用いて、がん細胞におけるNRF2の活性化と浸潤してくる免疫細胞の差異について解析した。NRF2の標的遺伝子であるNqo1やGclcなどの発現量に応じて「NRF2 活性が高い群」と「NRF2活性が低い群」に分け、それぞれの群における免疫細胞のプロファイルをT細胞、樹上細胞などに着目して解析した。その結果、いくつかの細胞群で優位な差が観察されたので、これらの差異がNRF2依存性がんの悪性化に寄与するか、また、どのような分子メカニズムが存在しているかを同種移植可能なモデルがん細胞などを用いて今後解析する。一方で、NRF2依存性がんの発生過程において腫瘍免疫に対して脆弱性が生じる可能性があることがわかり、今後この仮説の可能性についても検証する。
2: おおむね順調に進展している
ヒト肺がん患者の公開されているデータやマウス肺がんモデルなどを用いた解析からNRF2依存性がんに特徴的な免疫プロファイルの解析を順調に行うことができた。また、マウスの同種移植移植可能なモデルがん細胞の実験も当初の予定通り進んでいる。
C57BL6マウスで同種移植可能なNRF2活性化モデルがん細胞をC57BL6マウスおよび免疫不全マウスであるヌードマウスに同種移植することで、ヒト肺腺がんで観察された傾向が実験学的に再現できるかを検討する。またこれらの腫瘍浸潤プロファイルの差異がNRF2依存性がんの悪性化に寄与しているかを検討する。
腫瘍浸潤免疫細胞や腫瘍微小環境を改変するメカニズムについての解析が順調に進み、予定より少ない経費で解析が進んだため。
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FASEB J
巻: 36 ページ: 1-16
10.1096/fj.202100776RR.