研究課題/領域番号 |
19K07380
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
斉藤 真一 山形大学, 医学部, 助教 (90536674)
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研究分担者 |
浅尾 裕信 山形大学, 医学部, 教授 (80250744)
中島 修 山形大学, 医学部, 教授 (80312841)
武田 裕司 山形大学, 医学部, 准教授 (90302299)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 5-アミノレブリン酸 / 糖尿病 / インスリン抵抗性 / 慢性炎症 / 好中球 / 脂肪組織 |
研究実績の概要 |
肥満に起因する慢性炎症は、インスリン抵抗性を惹起させ、2型糖尿病とその合併症(腎症・動脈硬化・認知症・易感染など)の基盤病態となると考えられている。しかし、合併症を発症する糖尿病後期は、必ずしも肥満を伴っていない。さらに、日本人を含むアジア人では欧米人と比較し、軽度の肥満であっても糖尿病発症リスクが高くことが知られている。したがって、非肥満型のインスリン抵抗性・2型糖尿病の病態解明は、その合併症の予防を考える上で重要である。 我々は、加齢依存的に惹起されるヘム代謝能の低下が糖代謝異常発症に関与するという仮説の元で、5-アミノレブリン酸(5-ALA)合成酵素遺伝子破壊マウス(Alas1+/-マウス)を対象とした糖代謝解析を行ってきた。このマウスは、加齢依存的にインスリン抵抗性を発症し、発症後でも明らかな肥満傾向は示さないため、肥満を伴わないやせ型糖尿病のモデルになると考えられた。そこで、本研究では、当マウスの免疫機能を評価することで、糖尿病合併症のリスクファクターを探索することを目的とした。 実施に際し、1-a)Alas1+/-マウスの免疫機能評価、1-b)血中の炎症性サイトカインのプロファイリング、2-a)腹腔内脂肪組織の形態観察、2-b)腹腔内脂肪組織におけるマクロファージの分類、3-a)炎症性サイトカイン発現におけるシグナル伝達分子の解析、の具体的検討課題を設定した。 末梢血での解析の結果、Alas1+/-マウスは、野生型マウスと比べ、顆粒球、特に好中球の細胞数が高い値を示した。また、好中球の代表的機能であるROS産生能も、5-ALA投与により改善されることを見出した。今後は、リンパ球ないし顆粒球集団でのRNAシーケンシング等の遺伝子発現解析により、非肥満型インスリン抵抗性のバイオマーカーとなる候補遺伝子の検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的検討課題の1-a,1-bに関して、Alas1+/-マウスの免疫機能評価のため、細胞表面マーカー解析により、末梢血の免疫細胞集団の性状を解析した。その結果、Alas1+/-マウスは、野生型マウスと比べ、総白血球数やリンパ球系細胞(T細胞、B細胞)の数に差はないが、顆粒球細胞数が高い値を示した。さらにAlas1+/-マウスに5-ALA投与を行うと、高値を示した顆粒球、特に好中球の細胞数が正常値に減少することを明らかにした。また、好中球の代表的機能であるROS産生能も、5-ALA投与により改善されることを見出した。好中球とその分化過程におけるAlas1の機能は未だ不明であるが、5-ALAの欠乏が好中球を介した免疫システムの異常に関わる可能性が示唆された。 具体的課題の2-a,2-bに関して、腹腔内脂肪組織におけるマクロファージの分類のため、脂肪細胞を除いた間質血管細胞群stromal vascular fraction:SVFを分離し、細胞表面マーカー解析を行った。現在のところ、Alas1+/-マウスと野生型マウス間でのマクロファージ集団の差異は観察されていない。 5-ALAの欠乏が顆粒球、特に好中球の細胞数や機能に関わる可能性が示唆され、これは本研究により得られた新たな知見であると期待している。以上を踏まえ、本研究は現在までのところ、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
具体的検討課題1-aに関しては、好中球集団にターゲットを絞り、エラスターゼ活性など機能に関する解析を進めていく。1-bに関しては、マウスの骨髄由来樹状細胞(BMDC)を用いて、in vitroでのサイトカイン産生能に対する5-ALAの効果を検証する。 具体的課題2-a,2-bに関して、これまでは脂肪組織間質に局在するマクロファージ集団に対してのみ解析を進めてきたが、これまでの進捗状況を踏まえリンパ球や好中球集団に焦点を当てた解析を行う。 課題3に関しては、野生型マウスとAlas1+/-マウスの骨髄、脾臓から分離したリンパ球ないし顆粒球集団でのRNAシーケンシングを行い、差異を生み出す候補遺伝子の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、主な経費支出としてフローサイトメトリー用の蛍光標識抗体、ビーズ型アッセイキットを消耗品費に計上していた。2019年度での解析使用分の内、所属する講座に既存の抗体、キットを使用することで補えたものが多く、新規または不足分の購入を最低限に抑えることができた。そのため、次年度使用が生じた。 2019年度に生じた差引額分は、バイオマーカー探索のため、複数サンプルでのRNAシーケンシングに使用する計画である。
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