研究課題/領域番号 |
19K07382
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
山口 啓史 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (50644241)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オートファジー / ゴルジ / 神経変性 / Wipi3 |
研究実績の概要 |
Golgi membrane-associated degradation pathway (GOMED)は、ゴルジ体から細胞外や細胞膜に輸送されるタンパク質の輸送が障害を受けたときに、行き場を失ったタンパク質を分解する機構であり、酵母から哺乳動物まで保存され、真核生物共通の機能であると考えられる。膵b細胞が低血糖に曝された時には、分泌され損なったインスリンの分解をGOMEDが担うことや、GOMEDを欠損したマウスでは神経変性疾患が生じていることから、GOMEDが生体内において、重要な生理的機能を有していることを示している。これまでに、(1) 出芽酵母、哺乳動物の両者において、Wipi3が新規オートファジーを制御する分子として同定することができた。また、(2) 出芽酵母Wipi3欠損株および哺乳動物Wipi3を欠損したマウス線維芽細胞に対して電子顕微鏡観察を行った。その結果、Wipi3が新規オートファジーのステップにおいて、隔離膜形成過程を制御していることを見出した。また、(3) Wipi3が細胞質からゴルジ体に細胞内局在を変化させ、隔離膜形成を行っていることを明らかにすることができた。さらに、(4) 脳特異的Wipi3欠損マウスを作製し解析した結果、Wipi3を欠損したマウスでは神経変性疾患様症状を呈することを見出した。従来型オートファジーに必須のAtg7欠損マウス脳においても神経変性疾患様症状が見られるが、各欠損マウス脳の細胞の微細構造を比較すると、オルガネラの異常部位が異なることが判明した。このことから、Atg5/7依存的オートファジーとWipi3依存的GOMEDは、脳における生理機能部位が異なることが明らかとなり、両オートファジーの使い分けがみられることがわかった。以上の成果をまとめ、Nature communications誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では、(1) GOMED必須分子Wipi3の機能解析、(2) 膵b細胞におけるGOMEDの欠損から生じる細胞障害機序の解析、(3) GOMEDが重要な役割を担っている分泌細胞の同定の3つの方向から、GOMEDの分子機構の全体像、生理的役割の解明を目指している。(1) Wipi3の機能解析に関しては、Wipi3が隔離膜形成を制御していることを見出し、翻訳後修飾分子や相互作用分子も明らかにしつつあり、概ね予定通り研究は進行している。(2) 膵b細胞におけるGOMEDの欠損から生じる細胞障害機序の解析に関しては、Wipi3欠損膵b細胞株では、低グルコース負荷時おいて細胞内にインスリンが蓄積していることを見出しており、より詳細な検討を加えるため、マウスレベルでの実験を行う必要がある。(3) GOMEDが重要な役割を担っている分泌細胞の同定に関しては、Wipi3のfloxマウスを作製に成功し、分泌制御にGOMEDが関与することが想定される細胞に特異的なcreマウスと交配し、表現型を解析する予定である。順調に実験が進めば、GOMEDが重要な役割を担っている分泌細胞を同定できる見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Wipi3の機能解析に関しては、Wipi3の翻訳後修飾およびWipi3との相互作用分子も見出しており、GOMEDのシグナル伝達機構を構築していく予定である。(2) 膵b細胞におけるGOMEDの欠損から生じる細胞障害機序の解析に関しては、Wipi3欠損膵b細胞株では、低グルコース負荷時おいて細胞内にインスリンが蓄積していることを見出している。より詳細な検討を加えるため、Wipi3 floxマウスとRip-Cre マウスを交配させ、グルコース応答性を評価する予定である。(3) GOMEDが重要な役割を担っている分泌細胞の同定に関しては、Wipi3のfloxマウスと分泌制御にGOMEDが関与することが想定される細胞に特異的なcreマウスと交配し、表現型を解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
4月から6月前半まで、約2.5ヶ月間は、90%研究削減の指示が大学より出ており、細胞株やマウスの維持のみしかできず、予定していた物品等の購入を見合わせた。研究削減時期に行う予定であった検体数の追加(細胞、マウス実験共にサンプル数の追加)を、今年度行うことにより、最終目標を達成する。
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