研究課題/領域番号 |
19K07383
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
田中 直樹 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (80419374)
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研究分担者 |
長屋 匡信 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 講師 (00718033)
中村 浩蔵 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (20345763)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
本研究は、食事中のトランス脂肪酸による肝発癌促進機構の解明を目的とした。 令和元年度は、新たに開発したトランス脂肪酸置換餌・チオアセタミド肝発癌実験系を用いて、定量PCR、ウエスタンブロット、ELISA、免疫染色などで様々な肝発癌促進因子の評価を行った。その結果、トランス脂肪酸置換餌を投与すると、炎症や小胞体ストレスに関連する遺伝子の発現が有意に亢進することが判明した。また10週間の短期投与でも同様の結果が得られ、これらの肝発癌ドライバーが早期から変動することが示唆された。予想に反して、酸化ストレスや線維化に関連する遺伝子は目立った変化が見られなかった。 盲腸内容物における腸内細菌叢検索では、トランス脂肪酸置換餌に特有の変化が認められたが、それらの腸内細菌と肝発癌との関連は今後のさらなる検討を必要とすると考えられた。また盲腸内容物のメタボロミクス解析でもトランス脂肪酸置換餌・チオアセタミド投与群だけで変動している、興味深い低分子物質が複数同定された。 以上より、トランス脂肪酸置換餌・チオアセタミド投与にて生じる肝発癌機構として、腸内環境変化を介した肝微小炎症や小胞体ストレスが一つの原因と考えられた。今後は炎症や小胞体ストレスと肝発癌を結びつける転写因子、シグナル伝達経路を解析し、肝発癌機構をさらに明らかにさせていきたい。さらに小胞体ストレスを軽減させる分子シャペロンを共投与する実験を行い、トランス脂肪酸による肝発癌機構における小胞体ストレスの意義を検証したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の実施計画として挙げた代表的な肝発癌ドライバー遺伝子の発現を確定でき、短期投与による再現性も確認できた。さらに盲腸内容物を用いたメタジェノム、メタボロミクス解析を施行できた。これらのデータを踏まえて、次年度の研究の進め方を考えることができた。以上より、現時点では研究は大きな問題なく進行していると判断している。さらに次年度以降の細胞実験の準備も開始できた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、炎症や小胞体ストレスと肝発癌を結びつける転写因子、シグナル伝達経路を解析し、それらの阻害剤を共投与する実験を行うことで、肝発癌機構をさらに明らかにしていきたい。 7,12-dimethylbenz(a)anthracene (DMBA) 、streptozotocin+脂肪食 (STZ-HFD) による肝発癌モデルでも同様の現象が観察されるか、並行して確認していく。 また細胞実験として、炭素数が等しいトランス脂肪酸、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、またはトランス脂肪酸置換食投与で変化した代謝物・分泌蛋白などを肝細胞、肝癌細胞、マクロファージ、LX2 細胞などの単独・共培養系に投与し、同定されつつある発癌経路、p62/Nrf2 経路、マクロファージの炎症惹起性やLX2細胞の老化促進因子などの解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で見込んだよりも動物飼料や試薬の購入が安価で済ますことができたため、次年度使用額が生じた。令和2年度請求額とあわせて、動物、試薬、キット、チューブ、チップなどの購入に充てる予定である。
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