研究実績の概要 |
本研究は、食事中のトランス脂肪酸による肝発癌促進機構の解明を目的としている。初年度は、新たに開発したトランス脂肪酸置換餌・チオアセタミド肝発癌実験系を用いて、定量PCR、ウエスタンブロット、ELISA、免疫染色などで様々な肝発癌促進因子の評価を行った。次年度の検討では、食事中トランス脂肪酸による肝発癌促進機構として、炎症(Ccl2, Spp1)や小胞体ストレス(Hspa5, Ddit3)、そしてその下流に存在する癌遺伝子である Myc の亢進が主体的役割を果たしていることが推測された。さらに小胞体ストレスと Myc の発現、肝発癌を結びつけるシグナル伝達経路を解析していくうちに、β-cateninの核内安定化に注目するに至った。小胞体ストレスにより転写因子のRac1が活性化し、β-cateninの発現だけでなく、核内での分解を阻害していると考えられた。これらの結果から、「食事中トランス脂肪酸→肝細胞での小胞体ストレス増加→Rac1亢進→β-cateninの核内安定化→Mycの亢進→肝発癌」という仮説を立てた。計画最終年度である令和3年度は、上述の仮説を証明すべく、トランス脂肪酸による肝発癌モデルに小胞体ストレスを軽減させる分子シャペロン、Rac1阻害剤、β-catenin阻害剤を共投与する実験を施行した。フェニル酪酸を分子シャペロンとして選択したが、肝臓への移行率を向上させるため、ナノ粒子化したフェニル酪酸を合成、使用した。その中で、β-catenin阻害剤の共投与にて肝癌の発生頻度が低下する傾向が認められた。6か月以上かかる共投与実験であるが、今後再現性の確認を行う予定である。
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