研究実績の概要 |
統合失調症や自閉スペクトラム症は、遺伝要因が発症に強く関与するとされる。近年、研究代表者らは全ゲノムにわたりゲノムコピー数変異(CNV)や一塩基置換(SNV)を探索し、頻度は稀ではあるが発症に大きく寄与するゲノム変異を多数同定し、発症関連遺伝子を特定しつつある。研究代表者らは、日本人統合失調症を対象としたゲノム解析で、リーリン遺伝子(リーリン)を欠失している患者親子を同定した。リーリン(Reelin)は脳の発生・成熟・維持に関与するタンパク質である。研究代表者らは、統合失調症患者の全ゲノム解析により、発症に関与する遺伝子の一つとして、リーリン欠失患者を1家系2名において同定し、リーリン欠失患者iPS細胞から分化した神経細胞に見られた遊走の特性を報告した(Sobue et.al, 2018; Arioka et al., 2018)。さらに統合失調症発症に到る機構を解明するため、ゲノム編集技術によって当該リーリン欠失をモデルとした患者型リーリン遺伝子欠失マウスを新規で作製した。以上を踏まえ、本申請課題では、リーリン欠失マウスの行動薬理学的解析、組織病理学的解析、培養神経細胞を用いたin vitro遊走解析、リーリンシグナル伝達の分子生物学的解析、遺伝子発現解析を実施し、論文化した(Sawahata et al., 2020; Tsunemura et al., 2021)。リーリン欠失患者由来iPS細胞から分化させて認められたような細胞遊走およびリーリンシグナル異常が生じているかどうかを比較し、リーリン欠失から統合失調症発症に到る機構の一端を明らかにした。
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