研究課題/領域番号 |
19K07388
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
森口 尚 東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (10447253)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マスト細胞 / 炎症性サイトカイン / RNAシーケンス / ChIPシーケンス |
研究実績の概要 |
今年度は、マスト細胞株であるBRC6細胞とGATA2抗体を用いたクロマチン免疫沈降シーケンス解析を行い、GATA2のゲノムDNA上での結合部位を網羅的に探索した。その結果、GATA2結合ピークの近傍にはETSファミリー転写因子やRUNX転写因子ファミリーの結合ピークが高頻度に存在することがわかった。そこで、ETSファミリー転写因子のPU.1に対する抗体を用いたクロマチン免疫沈降シーケンス解析も同時に行ったところ、 BRC6細胞ではGATA2とPU.1のピークがオーバーラップした領域が数多く存在し、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子や複数のサイトカイン・ケモカイン遺伝子群がGATA2-PU.1オーバーラップ結合領域を含んでいることがわかった。BRC6細胞でもリポポリ多糖(LPS)刺激により多くの炎症性サイトカインの遺伝子発現が誘導されたが、 GATA2とPU.1のゲノム上での結合パターンや結合強度に大きな変化はみられなかった。一方で、GATA2欠損する骨髄由来マスト細胞を用いたRNAシーケンス解析では、野生型マスト細胞と比べて複数の炎症性サイトカインのLPS刺激時の発現レベルが減少することがわかった。これらの結果から、GATA2はLPS刺激による炎症性サイトカイン発現誘導を維持するために重要な機能を持つが、GATA2やPU.1以外のLPS誘導性因子がサイトカイン発現誘導を直接制御する可能性が示唆された。ヒト炎症性疾患との関連が深いサイトカインであるIL6遺伝子に着目し解析を進めたところ、遠位の制御領域内にGATA2-PU.1オーバーラップ結合領域が複数存在することがわかった。今後は、これらの遺伝子制御領域の機能に焦点をあて解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、マスト細胞株を用いたクロマチン免疫沈降シーケンス解析のデータと、GATA2欠損マスト細胞を用いたトランスクリプトーム解析データを得て、それらのバイオインフォマティクス解析が進んでおり、多くの新しい情報が得られている。GATA1とGATA2に対する阻害剤としての、小核酸分子の候補に関してはin vitroでの特異的活性は確認できており、今後細胞に導入した際の機能に関して解析を進める。また、ヒト炎症性疾患との関連が深いサイトカインであるIL6遺伝子に関して、GATA2とPU1により制御される重要なエンハンサー領域を見出しており、今後、解析を進める。骨髄球系血液細胞で産生されるヒスタミンに関する最近の知見をまとめた総説論文をGenes to cells誌に報告したが、すでに複数の論文に引用されており、一定の評価を得ている。以上のことから、本研究に関しておおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、炎症性サイトカインを活発に産生する好中球と、炎症性サイトカイン産生が抑制された好中球の存在を明らかにした。この性質の異なる2つの細胞集団を用いたRNAシーケンス解析を進めており、遺伝子発現プロファイルの違いが明らかになりつつある。次年度には、バイオインフォマティクス解析をさらに進め、性質の違いをもたらすメカニズムを明らかにする。GATA1とGATA2に対する阻害剤としての小核酸分子に関しては、細胞に導入した時のGATA因子阻害活性を検討する。十分な阻害活性が得られた場合は、マウスでの炎症・アレルギー疾患モデルを用いてその予防・治療効果を確認する。また、IL6遺伝子座に存在する発現制御領域に着目し、培養細胞と遺伝子改変マウスを用いた解析を進めている。今後の研究で、この制御領域の多型がヒトの炎症性疾患罹患と関係する可能性を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度はコロナ禍で学会出張がなくなり、旅費の執行がなくなった。一方で、次世代シーケンサー解析にかかる費用としてその他の項目での執行額が増加したが、最終的に次年度使用額が生じた。次年度は最終年度であり、今年度までに得られた次世代シーケンサーデータのバイオインフォマティクス解析を行う予定である。また、まとめとして複数の論文投稿料が発生する見込みである。今年度に樹立した遺伝子改変マウスの飼育費用が増加する見込みなので、次年度使用額はこれらに充てる予定である。
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