研究課題/領域番号 |
19K07390
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
森 一憲 昭和大学, 薬学部, 講師 (60349040)
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研究分担者 |
柴沼 質子 昭和大学, 薬学部, 教授 (60245876)
石川 文博 昭和大学, 薬学部, 講師 (60515667)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エネルギー代謝 / ミトコンドリア電子伝達系 / サイクリン依存性キナーゼ阻害因子p21Cip1 |
研究実績の概要 |
本課題では、癌細胞の呼吸鎖機能と増殖能を共役させる増殖制御機構として、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体I酵素 (NADH:ユビキノン還元酵素) により制御されるエネルギー代謝-細胞増殖共役機構の解明に取り組む。本年度は、以下の点を明らかにした。 1. NAD+および関連分子に関する解析:複合体Iの抑制により低下する細胞内NAD+量を回復させるために、Lactobacillus brevis由来NADH酸化酵素 (NADHをNAD+へ変換する) をミトコンドリアに発現させた。この発現により細胞内のNAD+量は回復し、複合体I抑制時のp21Cip1の転写活性化と増殖抑制は観察されなくなった。従って、複合体Iはミトコンドリア内にNAD+を供給することで、p21Cip1の発現を抑制していると考えられた。また、本機構でNAD+を感知して機能する関与分子として、NAD+依存性脱アセチル化酵素クラスⅢ (サーチュイン)、およびその標的としてヒストンと転写因子FOXO3aを想定しているが、これらの関与については現在検討中である。 2. p21Cip1転写活性化に関する解析:複合体Iの抑制により活性化するp21Cip1の転写について、活性化に必要な応答配列領域を絞り込んだ。p21Cip1遺伝子上流を含む、様々なルシフェラーゼレポーターを構築し、それらの応答性を調べたところ、転写活性化に必要な応答領域は上流約200bp内に存在することを明らかにした。また、上述したLactobacillus brevis由来NADH酸化酵素の発現により、複合体I抑制時の転写活性化が減弱した。この領域がエピジェネティック制御を受ける可能性について、ヒストンやDNAの修飾状態を解析しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミトコンドリア局在型NADH酸化酵素により、NADHからNAD+へと変換させた結果、複合体Iの抑制による影響を回復することができた。これにより、複合体I抑制による影響はミトコンドリアでのNAD+量の低下が引き金であることを示唆できたが、実際に細胞内小器官内でのNAD+量を測定することも必要である。 また、p21Cip1プロモーター領域で、本制御に必要な領域を絞り込むことができた。この領域でのヒストンやDNAの修飾状態、関与する転写因子の解析について、未だ十分な解析は進んでいない。今後、転写制御に関わる変化を調べ、本課題である転写制御機構を明らかにするために、さらに進展させる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、転写制御に関する解析を中心に進める予定である。様々な代謝経路に関わるNAD+は、ヒストンやDNAの修飾酵素の基質でもあることから、その変動はヒストンやDNAの修飾状態を変化させ、遺伝子の発現を制御する可能性がある。従って、絞り込んだプロモーター領域を中心にヒストンやDNAの修飾状態を調べる。また、当該プロモーター領域に結合しうる転写因子の候補について、データベースを基に絞り込み、関与する可能性を検討する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた試薬や測定キットが少なく済んだため、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金とあわせ、主にヒストンやDNA修飾を解析するための物品費として使用する計画である。
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