研究課題
顕微鏡的多発血管炎(MPA)の血清で特異的に増加する、アポリポ蛋白A-I(ApoA-I)のC末端13アミノ酸残基からなるペプチド(AC13)の質量分析及びELISAによる定量系を構築し、MPAを近縁疾患から鑑別するバイオマーカーとして確立することを目的とする。【質量分析】AC13及び内部標準として安定同位体標識AC13を合成した。AC13及び安定同位体標識AC13を健常血清に各々終濃度0-20μM及び20μMで添加した。血清からC18磁気ビーズで抽出したペプチドをMALDI-TOF/MSで測定したところ、1.25-20μM AC13の範囲でAC13濃度とAC13イオン強度/安定同位体標識AC13イオン強度比の間に高い相関を認めた(R2=0.9989)。予備的検討において、MPAの血清AC13濃度(6.3±4.1μM, n=12)は、関節リウマチ(2.0±0.7μM, n=12)、多発血管炎性肉芽腫症(2.3±0.9μM, n=5)及び健常(1.9±0.9μM, n=12)に比し有意に高値を示した(p<0.05)。またMPAの血清AC13濃度とCRPの間に中程度の相関を認めた(r=0.594, p<0.05)。以上の様に、質量分析による血清AC13濃度の測定系の基盤を構築した。【ELISA】AC13-KLHの免疫により腹水抗体価が上昇したマウスが得られ、その脾細胞よりハイブリドーマを作製した。AC13のN末端は、ApoA-Iには存在しないAC13特異的なエピトープとなる。AC13-BSAを抗原とするELISAでのスクリーニングにより、このAC13のN末端を認識する抗体を産生するミックスクローンを確認した。現在、当該ミックスクローンの限界希釈を行っている。
2: おおむね順調に進展している
【質量分析による血清AC13濃度の測定系の確立について】本年度は、安定同位体標識AC13を内部標準に用いたMALDI-TOF/MSによる定量系を構築する計画であり、実際に当該測定系の基本的な方法を構築した。この測定系により、安定同位体標識AC13のイオン強度に対する血清AC13のイオン強度の比から、血清AC13濃度を算出することが可能となった。さらに、本測定系を用いた患者血清のAC13濃度測定の予備的検討まで到達している。この結果、MPA血清に特異的なAC13の増加(Arthritis Rheum 2011; 63:3613)が再確認された。よって、本項目については予定よりも進行している。【ELISA定量による血清AC13濃度の測定系の確立について】本年度は、AC13をマウスに免疫して得られた抗体について、二段階スクリーニングを行い、ApoA-Iを認識しないAC13特異的モノクローナル抗体を得る計画であった。得られた抗体を用いた競合ELISAの系を構築し、患者血清のAC13濃度の予備的定量まで行う予定であったが、到達状況は、当該抗体を産生するハイブリドーマのミックスクローンの確認までである。しかし、現段階のミックスクローンはほぼ単一細胞に近い状態であり、当初困難と考えられていたApoA-Iに結合せずAC13に結合する抗体の獲得が達成できた。また、抗体のスクリーニングのための基本的なELISAの系は確立している。よって、本項目は予定よりはやや遅れているが、内容としては十分に進行している。以上より、本研究は全体としておおむね順調に進展していると判断した。
【質量分析による血清AC13濃度の測定】AC13をMPAのバイオマーカーとして確立するために、MPA血清、対照として多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、その他の血管炎、血管炎以外の膠原病、感染症、健常血清を収集する。血清収集と並行し、現在の質量分析系の改善を行う。C18磁気ビーズを用いて血清からペプチドを抽出する際、血清アルブミン等の血清タンパク質も同時に抽出されてきており、それらが質量分析におけるAC13の検出感度を低下させている可能性がある。マトリックス溶液組成の変更、C18抽出液とマトリックス溶液の混合比率の調整、血清アルブミン除去後にC18磁気ビーズ抽出する等の改善を行うことで、AC13のイオン化効率の向上を図る。測定系の改善後、収集した各疾患の血清AC13濃度を測定し、日間差などの再現性の評価も行う。【ELISA定量による血清AC13濃度の測定】AC13のN末端を認識する抗体を産生するハイブリドーマをクローニングする。クローニング後、培養上清より得られた当該抗体を用い、競合阻害の程度で定量する競合ELISAの系を構築し、収集した血清中のAC13濃度を定量する。質量分析とELISAで得られた結果より、定量性や簡便性などについて、質量分析による測定系と比較検討する。
ELISA定量による血清AC13の測定系について、現在、競合ELISA法の測定系に用いる抗体を産生するハイブリドーマのクローニングの段階であり、測定系の構築まで至っていない。そのため、測定系構築にかかる費用が予定よりも少なくなった。また、血清収集は初期段階であり、当初の予定よりも収集費用が発生しなかった。これらの事柄が、次年度使用額が生じた主な理由である。2020年度には競合ELISA測定系の構築および血清収集が本格化するため、生じた次年度使用額はこれらの費用に充てる。
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Brain Research
巻: 1719 ページ: 140-147
10.1016/j.brainres.2019.05.034.