網羅的なヒト腫瘍の遺伝子解析から、既知のがん(抑制)遺伝子の変異に加えて、Nrf2や関連因子遺伝子の変異が見出されている。これらの変異は転写因子であるNrf2を恒常的に活性化させて、腫瘍の悪性化に寄与する。本研究では、後天的にNrf2を活性化もしくは欠失する新しい動物モデルを作製して、NRF2活性化細胞やNrf2欠失細胞の挙動を調べ、食道の発がん過程における影響を調べた。 マウス食道において後天的にKeap1を欠失すると、Nrf2陽性の細胞集団とNrf2陰性の細胞集団が各々おおよそ半数程度を占め、食道上皮層に斑らに存在した。Nrf2陽性細胞はNrf2陰性細胞に比べて形態が大きく、核が腫大しており、食道上皮組織は異形成となった。しかし、時間経過とともにNrf2陽性細胞は減少し、Nrf2陰性細胞が大半を占めるようになった。このNrf2陽性細胞の排除は、基底膜への接着が減弱したことによる管腔内へ脱落した結果であった。一方、Nrf2陽性細胞周囲に存在するNrf2陰性細胞は、Nrf2陽性細胞の存在によってDNA損傷を受け、代償的増殖が亢進した。さらに、化学発がん剤で食道がんを誘発すると、後天的にNrf2が活性化したマウスの方が易発がん性を示した。以上より、Nrf2活性化細胞そのものはがん化せず、周囲のNrf2陰性細胞にが発癌の起因となることが示唆された。 また、後天的にNrf2を欠失すると、Nrf2陰性の細胞集団がおおよそ半数出現した。Nrf2欠失を誘導後に化学発がん剤で食道がんを誘発すると、Nrf2欠失細胞は排除され、Nrf2陽性がんが形成された。一方、化学発がん剤により食道がんを誘導してからNrf2欠失を誘導すると、Nrf2陽性がんとNrf2欠失がんの両方が出現した。
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