研究課題
膵β細胞からのインスリン分泌は生体の糖恒常性維持において重要であり、グルコースやホルモン、神経入力などの種々のシグナルによって制御されている。一方、膵島の三次元構造の維持も正常なインスリン分泌制御に重要であることが知られている。本研究では、これまで不明であった膵β細胞のEpac2/Rap1シグナルによる細胞接着制御に焦点を当て、偽膵島をモデルとして膵島の三次元構造形成・維持機構におけるEpac2/Rap1シグナルの役割を明らかにすることを目的とする。今年度は以下の研究を行った。1)偽膵島形成におけるEpac2/Rap1シグナルの役割の解明膵β細胞におけるEpac2アイソフォームの発現を解析し、これまでに同定されていたEpac2A以外にEpac2B様の複数のアイソフォームの発現を認めた。これらすべてのEpac2アイソフォームを欠損する膵β細胞株(cKO細胞)をCRISPR/Cas9システムにより作製し樹立した。既に作製していたEpac2Aを含む一部のアイソフォームのみを欠損する膵β細胞株(pKO細胞)とインスリン分泌能や偽膵島形成能、およびcAMPによるRap1の活性化を比較し、アイソフォーム特異性を検討した。Epac選択的cAMPアナログに対するインスリン分泌応答はcKO細胞およびpKO細胞で同程度に低下しており、主にEpac2Aがインスリン分泌に関与していることが示唆された。cAMPによるRap1の活性化は一部のKOではほぼ完全に消失していた。cKOおよびpKOの両ノックアウト細胞は野生型の膵β細胞株と同様に膵島様の細胞凝集塊を形成するが、野生型に比べて表面が滑らかでなく不整な形状のものが多く見られ、新規Epac2アイソフォームが偽膵島形成の際の細胞間相互作用に関与していることが考えられる。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ計画通りに進行しているため。
1)偽膵島形成におけるEpac2/Rap1シグナルの役割の解明:前年度に作製したEpac2ノックアウト細胞を用いて偽膵島形成能の評価を行う。その際、cAMPやインクレチンなどのcAMPシグナルを活性化する薬剤を添加し偽膵島の形成や機能に対する効果がEpac2欠損により変化するかどうかを検討する。また、何種類かの細胞外基質の存在下で偽膵島を作製し、細胞外基質の種類による偽膵島形成能や機能の変化の有無およびEpac2欠損による影響を検討する。2)膵β細胞で細胞接着または細胞間相互作用に関与するEpac2/Rap1の下流因子の同定およびその機能解析:前年度に作製したEpac2欠損膵β細胞(cKO細胞)を用いて、アフィニティ精製などを利用したプルダウン法によりRap1とRap1結合タンパクの複合体を精製し、質量分析によりRap1結合タンパクを同定する。同定した候補タンパク質の機能解析を行い、膵β細胞の細胞接着または細胞間相互作用に関与するEpac2/Rap1の下流因子を同定する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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