研究課題/領域番号 |
19K07403
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
鴨下 信彦 自治医科大学, 医学部, 講師 (90302603)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナンセンスサプレッサーtRNA / RNAウイルス / 開始tRNA / ナンセンス変異遺伝病 / 終止コドンリードスルー |
研究実績の概要 |
ナンセンスサプレッサーtRNA (以下サプレッサーtRNA) を使用して病態解明に貢献できる生命現象として、「開始tRNAを使わない翻訳」に注目し、培養細胞中で明らかにできる分子機序を検討しました。2020年度に明らかにしていた、C型肝炎ウイルスが終止コドンから翻訳を開始する点と、一部の翻訳開始因子に対するsiRNAを使用したノックダウンによりこの活性が変動することから宿主因子同定にsiRNAが有用と考えられる点を、日本RNA学会年会で報告しました。
希少疾患におけるナンセンス変異の頻度を、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症を含む尿素回路異常症で検討しました。最終的に、対象遺伝子を8遺伝子に拡大、原発性高アンモニア血症の原因となるナンセンス変異として捉え直しました。8遺伝子全体で4,563個のコドンが存在します。その中の146個 (3.2%) で152のナンセンス変異が報告されていました。一塩基置換によりナンセンス変異を生じる変異は、23通り存在します。152の変異の中で、23通りのうちの2通りが突出して高く、全て、ではありませんが、他の遺伝性疾患でも、この傾向が認められました。従って、この2通りの変異への対策が、優先順位が高いと考えられました。
このうち、コドンQは2019年度に作製したtRNAが活性が十分高いことを確認していました。そこで、もう1つのコドンRの変異tRNAを3個作製しました。3個のうち1個は、リードスルーアッセイで全く活性がありませんでした。しかし、残りの2個は活性が存在しました。ところが、サプレッサーアッセイを行ったところ、セリンアンバーサプレッサーほどには強くありませんでした。原因を検討中ですが、コドンRのサプレッサーtRNAは、海外グループの報告も含めて、現時点で活性が適度に高いものが存在しないのではないかと考え始めています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
サプレッサーtRNAの分野で、海外グループが23通りのサプレッサーtRNA候補の合成に2年前に成功していたことが分かりました。相当の開きがあると予想しなければならない状況ですので、上記区分としました。しかしながら、採択が2年前であったおかげで、当方も独自のアプローチで新規サプレッサーtRNAを合成しています。現在ぎりぎり挽回可能な位置に付けていると考えています。採択に向けた評価をしていただいた審査の先生に感謝申し上げます。
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今後の研究の推進方策 |
論文化については、サプレッサーtRNAの機能解析がもっとも論文に近い状況に、世界情勢が変化していました。活性が不十分と評価しているコドンRの変異tRNAが、何故サプレッサー活性が弱いのか、原因を解明して論文化します。(1)コドンRの変異tRNAは毒性が強く、高発現の細胞が淘汰される、(2)アンチコドン変異に伴う、アミノアシル化などtRNAが本来持つべき機能の低下、の2通りの可能性を考えています。現在は(2)に重きをおいて進めています。
「開始tRNAを使わない翻訳」は、無細胞系で確たる証拠を示すアプローチに切り換えます。そのためには無細胞系で使用するtRNAが必要です。サプレッサーtRNAの合成と同時に「開始tRNAを使わない翻訳」の解析に必要なtRNAを作製、調整します。
「酵素局在の変化」については、昆虫ウイルスで検討する時間はなさそうです。対象を、データベース検索を行った、尿素サイクル異常症の「酵素機能の回復」、に切り換えます。患者変異として報告されている、ヒトのPTC (premature termination codon) 前後のシスエレメントがリードスルーに与える影響を、ドライ解析により評価します。
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次年度使用額が生じた理由 |
[理由] 年度途中で海外グループからの変異tRNA合成の報告を知り、サプレッサーtRNA解析に向けた研究計画を強化、研究針路を変更したため。また、英文論文が出ていない状況で、申請した科研費の新規採択に向けた展望が持てず、後でもよい実験は後に回すようにしたため。さらに、年度終盤から所属研究室の研究業務に割く時間が増加し、科研費の研究・実験を行う時間が物理的に減ったため。 [計画] サプレッサーtRNAの機能解析と論文化に使用します。
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