変異tRNAの有用性を評価する目的で、精製酵素とT7RNAポリメラーゼ転写物を使用し、tRNAのアミノアシル化レベルを解析した。野生型との間に大きな差はなかった。 ヒト集団中のナンセンス変異の実態を明らかにする目的で、健康人中のバリアントと、報告された症例変異の出現頻度を解析した。対象は尿素サイクル異常症の8遺伝子とした。 先行解析はゲノム上の変異部位の集計であった。これに対し、本研究ではアレル頻度と症例の出現頻度を集計した(同胞例は臨床経過を個別に集計した上で変異出現頻度1と数える)。CGA >TGA 変異は、30箇所存在するCGA/Argコドン中、20箇所で3例以上の症例が出現した。出現頻度は23通りのナンセンス変異起因性の一塩基置換の中で最多、全頻度の40%前後を占めた。この数値は過去の集計法の2.3倍であった。 対象を尿素サイクル異常症としたのは、申請書で言及したオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ欠損症も含め、未治療の場合の生命予後が不良であることによる。ところが、先進国では肝移植により、生命予後及びQOLが劇的に改善していた。これらの状況を踏まえ、同様の解析を他疾患に広げる必要性が考えられた。 RNAウイルスの終止コドンリードスルーの分子機序を明らかにする目的で、終止コドン下流のRNA構造がリードスルーに及ぼす影響を検討した。リードスルーを促進する構造は、終止コドンから9もしくは13塩基下流から起始した。一方、6塩基下流、もしくは終止コドン内部から起始する構造は促進効果が認められなかった。真核生物ではリボソームサブユニット間に30塩基前後のmRNAが存在すると考えられる。促進作用は、終止コドンが伸長過程にあるリボソームのサブユニット間に入り、Aサイト近傍まで接近した後で、下流構造とリボソームが相互作用をした場合に生成する可能性が考えられた。
|