研究課題/領域番号 |
19K07405
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研究機関 | 帝京平成大学 |
研究代表者 |
後藤 芳邦 帝京平成大学, 薬学部, 准教授 (90455345)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アミノペプチダーゼ / 不安障害 / セロトニン / モノアミン |
研究実績の概要 |
小胞体アミノペプチダーゼ(ERAP1)遺伝子欠損マウスから神経幹細胞を単離し、その性状を野生型細胞と比較したところ、本遺伝子欠損がセロトニン合成遺伝子の発現を亢進することを見出した。加えて、上記遺伝子欠損細胞を神経細胞へと分化させたところ、神経突起の形成不全を引き起こした。以上の結果は、ERAP1がセロトニン合成と細胞分化という別個の神経機能を制御していることを示唆する。また、この現象は、同マウスの脳内で観察されたセロトニン神経の性状と一致した。 ERAP1には2つのタイプ(分泌型と小胞体局在型)が存在する。そこで次に、両者のセロトニン合成遺伝子への影響について検討した。神経幹細胞の培養液中にアミノペプチダーゼ阻害剤を添加した結果、阻害剤は上記合成遺伝子の発現には影響を及ぼさなかった。ERAP1遺伝子欠損神経幹細胞上でERAP1遺伝子を一過的に発現したところ、セロトニン合成遺伝子の発現量が野生型細胞のように抑制されることが分かった。一方で、失活させた変異体ERAP1を発現させてもこのような現象が認められなかった。以上の結果を統合すると、セロトニン合成遺伝子の発現抑制には内在性ERAP1の酵素活性が重要であることが示唆された。
また、本研究過程で計画では予期しえなかった結果が得られた。ERAP1の類縁酵素であり、免疫において本酵素と協調的に働くP-LAPは、脳内のいくつかの神経核において、基質であるバソプレシンと共局在していた。さらにP-LAPの発現は概日リズムを有しており、バソプレシンのそれとは逆位相を示すことを明らかにした。ERAP1発現リズムの有無については、まだ確認できていないが、このようなアミノペプチダーゼのリズミックな発現は、情動が概日的に制御されうる根拠の一つとなりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要でも記述した通り、個体レベルで認められたセロトニン神経異常と培養細胞レベルで認められた現象がほぼ一致したことから、研究は順調に進展していると考えられる。一方で、ERAP1が如何なる分子機構で、上記の現象を引き起こしているのかについては、その端緒となりうる知見が極めて少ないためにまったく明らかではない。このミッシングリンクを明らかにすることが、本研究における最も大きな課題であると認識している。次年度よりその解明に挑戦する。 また、本研究を遂行中、試行錯誤の過程でERAP1の類縁酵素に関する新しい知見を得た。予想外であったが、この結果に関しては現在、成果をまとめて学術雑誌に投稿している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、ERAP1遺伝子欠損に伴うセロトニン合成遺伝子の発現亢進機構を分子レベルで明らかにすることを目指す。そのために、野生型および遺伝子欠損マウスの全脳抽出液と神経幹細胞溶解液を用いて、RNAシーケンシングを実施し、上記両マウス間の遺伝子発現レベルの差異を網羅的に明らかにする。次に、得られた候補遺伝子からセロトニン合成に関与する遺伝子群を抽出し、遺伝子組み換え技術やウエスタンブロットなどの細胞生物学的・生化学的な手法を取り入れてERAP1が直接関わる因子を同定する。 また、不安障害モデルとして持続的ストレスを付加したマウスを作製し、ERAP1およびセロトニン合成遺伝子発現の相関を解析することで、ERAP1が遺伝要因だけでなく、環境要因としても不安障害のリスクになりうるのかについて検討する。
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