研究課題/領域番号 |
19K07406
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
松村 喜一郎 帝京大学, 医学部, 教授 (50260922)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 筋ジストロフィー / 細管集合体ミオパチー / カルシウムホメオスタシス / STIM1 |
研究実績の概要 |
筋ジストロフィーは小児から成人まで幅広い年齢層に発症する遺伝性筋疾患の総称である。近年様々なタイプの筋ジストロフィーにおいて原因遺伝子が同定されてきている。しかしその結果筋細胞が変性・壊死に陥る詳細なメカニズムはいまだ明らかにされていない。一方で以前より筋細胞内へのカルシウムの過剰流入が筋ジストロフィーの病態と深く関わっているとの報告が数多くなされている。近年これに関連して、筋細胞における主要なカルシウム調節機構としてSTIM1-ORAI1シグナリングが注目を集めている。また我々は細管集合体ミオパチーの一家系においてSTIM1の細胞質内ドメインにおけるユニークなフレームシフト変異を見いだし報告している。 昨年度はこのSTIM1の変異が確認された細管集合体ミオパチー患者のリンパ球からiPS細胞を作製することに成功した。本年度はこのiPS細胞を骨格筋細胞に分化誘導して各種の実験を行った。初めに12週間の分化誘導を行った後1週間の接着培養を行った。この結果健常者由来の細胞同様に筋管細胞が形成され細胞の自発的収縮が観察された。次に4週間の分化誘導を行った筋芽細胞を用いてSTIM1の免疫染色を行った。この結果患者由来の細胞では核周囲の細胞質にドット状の凝集体が多数認められ、これは我々が過去に報告した変異STIM1を過剰発現させたときに見られる凝集体(Okumura et al, Neurol Genet.2016;2:e50)と類似の形状を示していた。このことから過剰発現させなくても同変異STIM1が生理的な量発現するだけで凝集体を形成する事が示され、本疾患の病態を理解する上で大変重要なデータが得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々が見いだした新規STIM1の変異を有する疾患特異的iPS細胞を樹立しこれを骨格筋へ分化誘導した結果収縮能を有する筋管が形成された。この細胞の核周囲にはSTIM1の凝集体が認められ本疾患の病態をよく反映しているものと考えられた。今後この細胞を用いることでSTIM1変異とカルシウム動態や病態との関連をさらに明らかにできるものと期待される。本年度はさらに細胞内カルシウムの測定を行う予定であったがそこまでは実施できなかった。このことから進捗状況としてはやや遅れていると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は作製したiPS細胞を用いてさらなる解析を行う。具体的には細胞内のカルシウム濃度を蛍光プローブを用いてモニタリングし、カルシウムホメオスタシスの変化の有無を観察する。またゲノム編集を用いた変異修復株の作製による表現型回復の観察も行う。一方で治療法の開発という観点から本細胞を用いてSTIM1の集積を緩和する薬剤のスクリーニングや、治療的ゲノム編集として変異アリルのみを破壊する方法の構築を行っていきたいと考えている
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は細胞内カルシウム濃度のモニタリングまで実施できなかったためにこれらに要する費用が次年度使用分として残った。この分は次年度にこれらの研究費用に充てる計画である。
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