研究課題/領域番号 |
19K07408
|
研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
越川 信子 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 主任上席研究員 (90260249)
|
研究分担者 |
竹永 啓三 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 特任研究員 (80260256)
永瀬 浩喜 千葉県がんセンター(研究所), がん遺伝創薬研究室, 研究所長 (90322073)
渡部 隆義 千葉県がんセンター(研究所), がん研究開発グループ, 研究員 (60526060)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | PI polyamide / Triphenylphosphonium / mutated mtDNA / cancer / malignancy |
研究実績の概要 |
Pyrrole-Imidazole polyamide (PIP)は、送達物質無しにDNAの副溝に結合しその転写複製を阻害する性質を有する。また、Triphenylphosphonium (TPP)カチオンは、化合物をミトコンドリア内に送達する性状を有する。そこで、ヘアピン型PIPとTPPを結合し(PIP-TPP)、変異ミトコンドリアDNA (mtDNA) を持つ癌細胞の増殖を抑制することを目的として、研究を進めている。1細胞に数百から数千コピーあるmtDNAに対応するため、PIP-TPPは長期にミトコンドリア内に貯留することが必要であると考えられる。そこで、PIP-TPPがミトコンドリアに貯留するかを確認したところ、抗TPP抗体とMitotrackerRedの共染色で、4日間は貯留することがわかった。また、変異mtDNAを持つ細胞では、低濃度で細胞死が認められたが、変異mtDNAを持たない細胞では認められなかった。癌細胞の増殖抑制のストラテジーとして、マイトファジー→アポトーシスがまず考えられるため、その機序を追求した。ほぼ100%のmtDNAがA3243G変異を持つHeLa細胞由来Cybridを用い、PIP-TPPを投与したところ、mtROSの産生が上昇し始め、次いで、マイトファジー、アポトーシス細胞が増加した。 以上の結果から、ヘアピン型PIP-TPPは、標的とする変異mtDNAを持つ細胞の細胞死を誘導することが明らかとなった。 また、特異的変異mtDNAを100%持つヒト肺癌由来 A549細胞を用い、短鎖型PIP-TPPを合成し、その効果について検討した。その結果、短鎖型PIP-TPPとA549を用いた場合、細胞にsenescenceを誘導した。さらに、抗アポトーシス因子、BclxLの発現が高いことから、BclxL阻害剤 A1145956を同時に投与することで、癌細胞の増殖を抑制した。この作用は、in vivo マウス実験においても腫瘍増殖の抑制傾向が認められた。 以上の結果から、PIP-TPPは変異mtDNAを有するがん細胞の増殖を抑制することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究協力者の尽力で、A3243G変異だけでなく、他のmtDNA変異に対するPIP-TPPの効果を試すことができた。 また、PIP-TPPの合成について、環境(湿度等)の変化によって、合成に支障が出ることがわかり、機器による合成のほか、手合成でのキャッチアップができたことが、実験を進める上で大いに役立った。PIP-TPPの癌細胞に対する効果は、mtROSの影響が大きいことがわかり、mtROSの発生時期とPIP-TPPの処理との関係を明らかにできた。
|
今後の研究の推進方策 |
複数のmtDNA異常に対してPIP-TPPを合成し、最も有効、かつ患者に幅広く使用できるよう、副作用の少ない薬剤候補を選出する。そのため、薬剤候補の培養細胞での実験に、iPS細胞、ヒト癌由来オルガノイドを加え、擬似組織への効果を観察する。それとともに、動物実験により力を入れることが大事であると考える。また、PIP-TPPの合成に、さらに湿度などが影響しない状況を検討する必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究責任者が怪我をし2ヶ月半入院したため、その間研究費の使用が停止した。この残額は、最終年度の論文投稿料などに使用したい。
|