変形性関節症は最も罹患者の多い加齢性の運動器疾患であり、介護要因の一つである。これまでに、障害誘導性のモデルマウスやヒト集団を用いた分子遺伝学的アプローチにより、病因論につながる分子やパスウェイが提案されてきたが、手術による治療法以外にエビデンスで支持された治療法は非常に限られており、また承認された疾患修飾薬もない。これまでに世界でも珍しい遅発性の変形性関節症自然発症マウスの遺伝素因の解析から、新たなシスチンの取り込みに関わるトランスポーターの活性消失型変異を発見し、その変異が新たな細胞死の型であるフェロトーシスの感受性を高めていることを見出した。in vitroならびに外科的手術によるin vivoの変形性関節症マウスモデルにおいても、フェロトーシスの関与を認めた。IL-1β依存的な鉄の取り込みを検知し、軟骨細胞における炎症シグナルによるフェロトーシスの惹起を観察した。また同族トランスポーター変異マウスも導入し、後輩により遺伝的な相互関係を検討した。さらに、ヒト変形性膝関節症の患者にのみ見られるミスセンス変異を同定遺伝子のヒトホモログ遺伝子上に見出した。フェロトーシスを調節する鉄とセレンについて、鉄過剰およびセレン欠乏で関節の異常が認められている。最近、ビタミンKがフェロトーシスを抑制することが報告され、またビタミンK阻害ワーファリンの使用が人工関節置換術のリスクを高めていることが知られており、変形性関節症の発症にフェロトーシスが関与している可能性が示唆された。
|