研究課題
SMARCB1/INI1の不活性化を示す脳腫瘍として異型奇形腫様ラブドイド腫瘍(AT/RT)は従来よりよく知られている。これは乳幼児の小脳に好発する高悪性度脳腫瘍であり、年齢と発生部位から髄芽腫との鑑別を要するが、予後に改善の見られている髄芽腫と比べると極めて予後不良と言わざるを得ず、INI1の不活性化を証明することは診断に直結する。これまでINI1の不活性化はラブドイド細胞の出現ならびに予後不良因子とほぼ同義のように理解されてきたが、我々はそうした既知の概念とは様相を異にする腫瘍をいくつか見出し、報告してきた。その1つがCNS low-grade diffusely infiltrative tumors with INI1 deficiency (CNS-LGDIT-INI1) である。本腫瘍は成人例が多く、低異型度びまん性グリオーマのように発生し、既存の脳組織に対して強い反応性変化を引き起こすことで特徴ある組織像を形成する。当初は緩徐増大性の経過を示すが、徐々に悪性度が上昇してやがて予後不良の転帰をとる。我々はこうした特異な脳腫瘍がINI1の免疫染色をおこなうことで診断可能であることを示した。こうした一群の脳腫瘍を層別化することは臨床的にもINI1の生物学的機能を解明する上でも意義が大きいものと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調であり、新たな研究シーズに対して解析を進めている。
脳腫瘍におけるinternal tandem duplication (ITD)変異の意義づけ:ITDの検出は既知の遺伝子解析技術では困難を伴うが、我々はそれを容易にする技術開発面でも成果を挙げている。このような微小な遺伝子重複がなぜ腫瘍を引き起こすのか、その機構解明を進めていく。EWSR1融合遺伝子に起因する脳腫瘍の層別化:EWSR1融合遺伝子の形成によって生じる脳腫瘍はこれまで稀とされてきたが、近年いくつかの融合パートナー遺伝子が判明し、その適切な層別化が期待されている。がんゲノム医療に用いられるFoundation Oneを用いるとEWSR1の融合パートナー遺伝子を割り出すことができるため、従来よりも検出件数が増えることが予想されるが、その前提としてEWSR1関連腫瘍であることを病理医が適切に診断することが必要である。年齢、性別、発生部位、予後とも絡めた層別化解析で新知見の探索を進める。
少額の残金のため、次年度に有効活用することとした。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
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