研究実績の概要 |
浸潤性肺腺癌は腫瘍内不均一性が著しく、増殖形態の異なる複数の病理学的組織亜型が混在しており、特に充実型増殖部、微小乳頭型増殖部を有する肺腺癌患者は極めて予後不良であることが報告されている。本研究では、微小乳頭型および充実型増殖部の形成メカニズムを解明し、浸潤性肺腺癌の組織亜型分類における分子生物学的特性を捉えた新規治療法開発へと応用するための検討を行った。充実型増殖部における遺伝子発現変化を同定するために、浸潤性肺腺癌患者の病理検体から抽出した充実型増殖部と腺房型増殖部における網羅的遺伝子発現比較を行った。その結果、充実型増殖部に特徴的な1272個 (増加: 677、減少: 595)の遺伝子発現プロファイルを同定した。発現増加遺伝子には細胞増殖に関わる遺伝子が多数含まれており、充実性の増殖像を示す充実型増殖部の表現型と一致していることが示唆された。さらに、公共データベース (TCGA、GEO、ChIP-Atlas)を用いたin silico解析によって、充実型増殖部の制御に関わると推測される10種類の転写因子を抽出した。これらの転写因子の機能解析を実施するために、各転写因子を安定発現させた肺腺癌細胞株 (A549)を樹立して細胞増殖能を検討した結果、4種類の転写因子の過剰発現によって細胞増殖能の有意な増加が認められた。さらに、これらの細胞株のうち、2種類は3次元培養においてコントロール株と異なる形態を示すスフェロイド (rough surface, grape-like)が形成された。これらの結果から、これらの転写因子が肺腺癌充実型増殖部の形成・維持に関与していること、浸潤性肺腺癌の新たな治療標的になり得ることが示唆された。
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