研究課題
膵癌は最も予後不良な癌の一つで、5年生存率は10%に満たない。その理由として、①早期に浸潤癌に進展するため、根治切除術の適応になる症例が少ないこと、②既存の抗癌剤が奏功する症例が少ないこと、が挙げられる。したがって、膵癌の治療成績や予後を改善するには、癌の進展に関わる分子メカニズムを解明して、得られた知見から新規の早期診断法や有効な治療法を開発することが必要である。そのために、膵癌発症マウスは有用な疾患モデルとなり得る。しかしこれまで報告されているモデルマウスは、いずれも上皮内腫瘍の段階で蓄積される遺伝子異常を導入したものである。したがって、浸潤癌への進展にはプラスアルファの遺伝子異常が関与していると思われるがその詳細はブラックボックスのままである。またこれらのマウスを用いた臨床応用につながるような成果の報告はほとんどなく、その理由としてヒト膵癌を模倣したモデルではないことが挙げられる。本研究は、上皮内腫瘍の発症に関わる遺伝子異常(変異Krasおよび変異p53)に加えて、浸潤癌への進展に関わる遺伝子異常(Dusp4欠失)を導入して、よりヒト膵癌に近いモデルマウスの作製を目指して遂行された。上記のヒト膵癌のゲノム異常を導入したマウスでは、ヒト膵癌と同様に、腺房細胞の萎縮・導管上皮化生から膵前癌病変を経て浸潤癌に進展していく組織像の連続的変化が観察された。また、周囲臓器への直接浸潤や、血行性およびリンパ行性の遠隔臓器(肺や肝)への転移、腹膜播種などヒト膵癌の進行期にみられる病理像が認められた。さらに、癌の進展に伴って活動性の低下やるいそうなど悪液質を示唆する臨床症状も観察された。
すべて 2021
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