癒着胎盤を合併した妊娠症例においては、絨毛が脱落膜を介さず子宮筋層に癒着、浸潤しており胎盤の自然剥離が困 難になるため分娩時の危機的出血を引き起こす。多くの癒着胎盤症例において分娩時出血量が増加し、輸血や子宮摘出などの緊急の対応を迫られることも多いが、その発生機序や病態には不明な点が多 い。癒着胎盤は絨毛が浅い子宮筋層に接しているものを真性癒着胎盤、絨毛が子宮筋層に深く侵入した ものを嵌入胎盤、子宮筋層を貫通し漿膜面に達するもの を穿通胎盤と分類する。本研究では人体病理組織標本を用いて組織学的特徴を詳細に観察し、臨床病理学的因子との関連性や、特にプロテアーゼ活性化受容体 (PARs)に注目した分子 学的特徴を総合的に検討し、癒着胎盤の病態解明をめざし研究を行なった。 癒着胎盤と診断された症例のうち、組織学的特徴や臨床病理学的因子および分 子学的特徴の十分な検討が可能な49例と、比較対象として正常胎盤33例について研究を進めた。真性癒着胎盤においては、コントロール群や嵌入、穿通胎盤に比べ、人工授精による妊娠である症例が有意に多かった。真性癒着胎盤ではコントロール群に比 べ出血量も有意に多かったが、嵌入、穿通胎盤ではさらに有意差を持って出血量が多かった。また、嵌入胎盤、穿通胎盤ではほとんどの症例で帝王切開や筋腫核出の既往が確認された。免疫染色においては、プロテアーゼ活性化受容体や血液凝固に関する因子の発現において正常と癒着胎盤の間に有意差がみられ、癒着胎盤の病態にこれらの因子が関わっていることが示唆された。
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