研究実績の概要 |
特発性肺線維症 (idiopathic pulmonary fibrosis, IPF) は稀ではあるものの,確定診断後の生存中央値が約3-5年の難病である。本症では肺が慢性進行性に線維化し,呼吸機能が徐々に低下する。IPFに侵された肺では、陳旧性の病変である蜂窩肺の近傍に幼若な、活動性の線維化巣である fibroblastic foci (FF)がしばしば認められる。FFの新たな形成を抑制できれば、IPFは制御可能な疾患となると我々は仮定しており、その形成機序に注目し本研究を行っている。 我々は正常肺組織から周皮細胞を分離、培養する系を確立した。当研究室で得た肺・周皮細胞 (HuL-Pと命名)は代表的な周皮細胞マーカーであるPDGFRBとCSPG4の両者を発現する一方、血管内皮細胞マーカーCD31は陰性であり、周皮細胞として矛盾しない表現型を示した。この細胞はTGF-beta signalingの有無に応じて周皮細胞様から筋線維芽細胞様まで動的に表現型を変化させること (pericyte-myofibroblast transition) も確認した。またIPFに侵された肺組織に認められるFFもHuL-P細胞と同様にPDGFRBとCSPG4の両者を発現していることも免疫組織化学的に確認した。これはFFが病的に活性化した周皮細胞に由来することを示す病理組織学的所見と考えている。 HuL-P細胞は正常細胞ではあるが、一種の間葉系幹細胞であり、活発に増殖し容易にapoptosisしない。しかし、抗apoptosis機能を有するBCL2 family memberであるBcl-xLとMCL1の両者の発現を抑制するとかなり効果的にapoptosisに陥った。さらに、この方法はHuL-P細胞のみならず、広く肺癌細胞をも細胞死させうる方法であることを見出している。
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