ヒアルロン酸(Hyaluronic acid)は、グリコサミノグリカンからなる細胞外マトリックス(extracellular matrix)の一種で、組織や体液中に存在し、組織形成や恒常性維持に重要な役割を担っている。高分子ヒアルロン酸は細胞増殖・分化・運動、抗酸化、幹細胞能維持、ハダカデバネズミにおける発がん抑制など種々の生物学的機能を発揮する一方で、低分子化したヒアルロン酸は種々のシグナルカスケードを惹起して血管新生や炎症を促進することが知られており、ヒアルロン酸代謝機構の解明はがん微小環境を理解する上できわめて重要と考えられる。本研究では、ヒアルロン酸分解に中心的役割を果たす新規糖鎖分解酵素HYBID (HYaluronan-Binding protein Involved in hyaluronan Depolymerization; 別名 KIAA1199)に着目し、Hybid遺伝子欠損マウスおよびヒト肺がん組織や初代培養間質細胞を用いて、がん微小環境形成・腫瘍進展におけるHYBIDの役割を明らかにすることを目的とする。本研究では、野生型およびHybid遺伝子欠損マウスを用いてがん細胞移植モデルを作製し、それぞれのマウスにおける腫瘍発育や組織学的な変化を観察・比較するとともに、腫瘍内におけるヒアルロン酸代謝解析を行った。また、免疫組織化学的手法を用いて、ヒト肺がん組織におけるHYBID発現およびヒアルロン酸沈着レベルの解析、がん組織での腫瘍内間質細胞プロファイル作成や各種臨床病理学的因子情報の収集を行い、HYBID発現、ヒアルロン酸代謝、腫瘍進展との関連を検討した。
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