研究課題
Carbohydrate antigen 19-9(CA19-9)は膵胆道癌に関連する腫瘍マーカーとして有名であるが、他臓器の癌でも上昇することが知られている。高齢者に多い胃癌患者でも血清CA19-9値の上昇が25~50%の患者にみられ、CA19-9陽性胃癌の予後は不良であると報告されている。しかし、その臨床病理学的意義は未だ不明である。そこで我々は、CA19-9陽性胃癌の臨床病理学的特徴を明らかにすることを目的として、胃癌の病理解剖症例を用いCA19-9及び粘液形質を免疫組織化学的に検討し、血清CA19-9レベルと臨床病理学的所見との関連を統計学的に解析した。また、CA19-9代謝に関連する酵素であるfructosyltransferase 2/3(FUT2/3)の遺伝子多型が胃癌のCA19-9発現に影響を与えるか否かについても検討した。その結果、CA19-9陰性胃癌に比べて CA19-9陽性胃癌はリンパ節転移、遠隔転移、リンパ管侵襲、静脈侵襲、進行度との関連が認められた。さらに、血清CA19-9低値を示す胃癌と比較し、高値を示す胃癌は、静脈侵襲、リンパ節転移、遠隔転移、進行度との関連を認めた。CA19-9発現、血清CA19-9高値を示す症例は、MUC1およMUC5ACの粘液形質発現と関連した。血清CA19-9高値を示す症例では非細菌性血栓性心内膜炎、心耳内血栓、播種性血管内凝固、肺腫瘍血栓性微小血管症などの凝固異常と有意な関連が認められた。FUT2/3遺伝子型は胃癌におけるCA19-9発現との関連はみられなかった。以上の結果より、CA19-9発現を示す胃癌は、腫瘍の転移のみならず、凝固異常に基づく種々の合併症を併発しやすいことにも注意を払うべきことが明らかになった。この研究成果は高齢者胃癌の診療に寄与しうる重要な知見と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
高齢者胃癌のうち、特に分化傾向の低い印環細胞癌、充実型低分化腺癌、非充実型低分化腺癌を約150例の臨床病理学的特徴を明らかにするとともに、分子病理学的な分類(マイクロサテライト不安定性、Epstein-Barrウイルス関連、染色体不安定性、ゲノム安定性)との関連について現在解析を進めている。粘液形質、ミスマッチ修復蛋白質発現、p53発現を検討するための免疫組織化学、Epstein-Barrウイルス感染の有無を検討するためのEBER in situ hybridization法の標本作製をほぼ終了し、組織学的に発現を評価中である。
高齢者胃癌のうちどのような特徴を有する腫瘍が免疫チェックポイント阻害剤の適応となるかについて検討を進める。また、高齢者早期癌の治療法として内視鏡的切除術の症例が近年増加傾向にある。これらの早期胃癌のうち、粘膜下層への浸潤を示す症例や脈管侵襲が目立つ症例の特徴が明らかになれば、追加切除の選択・経過観察の方法などに役立つ情報が得られる。約300例の症例を集積し、解析を進める予定である。
研究はほぼ予定通り進捗しているが、試薬の有効期間を考慮しながら購入しているので、多少のずれが生じたものと思われる。翌年度分とも合わせて、計画的に執行していく予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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