高齢者胃癌の分子病理学的特徴に基づく治療戦略の探索

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K07428
• 研究機関: 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)
• 研究代表者: 新井 富生 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (20232019)
• 研究分担者: 松田 陽子 香川大学, 医学部, 教授 (20363187)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 早期胃癌 / 高齢者 / 内視鏡切除 / 乳頭腺癌 / マイクロサテライト不安定性 / 免疫チェックポイント / PD-L1

研究実績の概要

１．高齢者早期胃癌の病理学的特徴．80歳以上の高齢者の早期胃癌の病理学的特徴を明らかにする目的で，内視鏡的に切除された232症例250病変，外科切除された74例86病変を対象として， 80歳以上の「高齢者」と79歳以下の「非高齢者」に分類して臨床病理学的所見を比較検討した．その結果，高齢者で女性患者比率の増加，隆起型の増加が有意に認められた．また，外科手術例で組織型に低分化腺癌の比率が増加する傾向がみられた．進行癌と比較すると，高齢者早期胃癌は分化型癌の比率が極めて高いが，組織混在型の出現に年齢との関連はみられなかった．高齢者にみられた特徴は，幽門部発生，隆起型，分化型癌，多発癌の増加，低リンパ節転移といった従来65歳以上の高齢者の特徴として知られている所見とほぼ同様であり，その特徴がより明瞭になる傾向にあった．
２．乳頭腺癌の分子病理学的検討．胃乳頭腺癌の分子病理学的特徴ならびに免疫チェックポイント阻害薬の適応を明らかにする目的で，40例（男性15例，女性25例，平均年齢78.7歳）の乳頭腺癌を解析した．分子病理学的に分類では，マイクロサテライト不安定性（MSI）は17例（43％）にみられ，他はEpstein-Barrウイルス関連2例（５％），染色体不安定性7例（18%），ゲノム安定性17例（43％）であった．MSIに分類される乳頭腺癌では，女性，下部発生，低分化腺癌成分の混在，早期癌比率と関連がみられた．粘液形質はnull typeの比率が高かった．MSIを示す乳頭腺癌では，tumor-infiltrating lymphocyte（7.8±3.1個/HPF），Cohn’s-like lymphoid reaction（57％）が有意にみられた．PD-L1の陽性率は3例のみであった．

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

高齢者胃癌のうち，特に分化傾向の低い印環細胞癌，充実型低分化腺癌，非充実型低分化腺癌を約150例の臨床病理学的特徴を明らかにするとともに，分子病理学的な分類（マイクロサテライト不安定性、Epstein-Barrウイルス関連、染色体不安定性、ゲノム安定性）との関連について現在解析を進めている．また，内視鏡切除対象となる早期胃癌のうちどのような分子病理学的特徴を有する腫瘍が粘膜下浸潤を示すかの検討も進めている．

今後の研究の推進方策

高齢者胃癌のうちどのような特徴を有する腫瘍が免疫チェックポイント阻害剤の適応となるかについて検討を進める．特に，高齢者早期癌の治療法として内視鏡切除術の症例が近年増加傾向にある．これらの早期胃癌のうち粘膜下層への浸潤を示す症例や脈管侵襲が目立つ症例の特徴が明らかになれば，追加切除の選択・経過観察の方法などに役立つ情報が得られる．約300例の症例を集積し，解析を進める予定である．

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍のため学会出張費が抑制されたことに加え，令和2年度は臨床病理学的な検討を実施した時期もあったため，試薬代などが抑制されたことによる．翌年度は，分子病理学的な検討を進めるので，効率よい運用を心がけていく予定である．

研究成果

• [雑誌論文] D-amino acid oxidase (DAO) rare genetic missense variant p.Pro103Leu and gastric cancer (2021)
  • 著者名/発表者名: Zong Yuan, Tanaka Masashi, Muramatsu Masaaki, Arai Tomio
  • 雑誌名: Molecular and Clinical Oncology 巻: 14 ページ: 58
  • DOI: 10.3892/mco.2021.2220
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [雑誌論文] Comprehensive analysis of DNA mismatch repair-deficient gastric cancer in a Japanese hospital-based population (2021)
  • 著者名/発表者名: Ito Tetsuya, Suzuki Okihide, Kamae Nao, Tamaru Jun-ichi, Arai Tomio, Yamaguchi Tatsuro, Akagi Kiwamu, Eguchi Hidetaka, Okazaki Yasushi, Mochiki Erito, Ishida Hideyuki
  • 雑誌名: Japanese Journal of Clinical Oncology 巻: - ページ: -
  • DOI: 10.1093/jjco/hyab026
  • 査読あり
• [雑誌論文] Mucin expression in gastric- and gastro-oesophageal signet-ring cell cancer: results from a comprehensive literature review and a large cohort study of Caucasian and Asian gastric cancer (2020)
  • 著者名/発表者名: Kerckhoffs K.G.P., Liu D.H.W., Saragoni L., van der Post R.S., Langer R., Bencivenga M., Iglesias M., Gallo G., Hewitt L.C, 、Fazzi G.E., Vos A.M., Renaud F., Yoshikawa T., Oshima T., Tomezzoli A., de Manzoni G., Arai T., Kushima R., Carneiro F., Grabsch H.I.
  • 雑誌名: Gastric Cancer 巻: 23 ページ: 765～779
  • DOI: 10.1007/s10120-020-01086-0
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] 高齢者早期胃癌の病理学的特徴 (2020)
  • 著者名/発表者名: 新井冨生，野中敬介，小松明子，井下尚子，相田順子，石渡俊行，松川美保，西村 誠，上垣佐登子，吉田孝司，金澤伸郎
  • 雑誌名: 胃と腸 巻: 55 ページ: 1449～1460
  • 査読あり
• [雑誌論文] Do we need special viewpoints for intraoperative frozen section diagnosis? (2020)
  • 著者名/発表者名: Arai Tomio
  • 雑誌名: Virchows Archiv 巻: 477 ページ: 761～762
  • DOI: 10.1007/s00428-020-02862-0
  • 査読あり / オープンアクセス
• [学会発表] Clinicopathological and molecular characteristics of poorly differentiated adenocarcinoma of the stomach (2020)
  • 著者名/発表者名: Arai T, Inoshita N, Nonaka K, Aida J, Ishiwata T
  • 学会等名: 32nd Congress of the European Society of Pathology and XXXIII International Congress of the International Academy of Pathology
  • 国際学会
• [学会発表] マイクロサテライト不安定性を示す腫瘍の病理診断 (2020)
  • 著者名/発表者名: 新井冨生
  • 学会等名: 第66回日本病理学会秋期特別総会
  • 招待講演