研究実績の概要 |
KRAS変異陰性膵管癌およびその前駆病変であるIPMNのDNA/RNAターゲットシーケンスを行った。KRAS変異陰性膵管癌10例および膵管癌の前駆病変であるIPMN(KRAS変異陰性)11例に対し、53遺伝子の融合遺伝子、および膵管癌・IPMN関連遺伝子を含む29遺伝子の変異について検索した。結果、3例の膵管癌(2例はcolloid carcinoma, 1例はclear cell carcinoma)で3種類の融合遺伝子(STRN-ALK, TRIP11-BRAF, FGFR2-CCDC147)が検出された。DNA解析からはTP53 (4/10); GNAS, ARID1A (3/10); RNF43, AKT1 (2/10); SMAD4, CDKN2A, BRAF, PTEN (1/10)で変異が認められた。IPMNにおいては融合遺伝子が検出されなかったが、DNAシーケンスで多種類の変異が認められた(GNAS (8/11), TP53 (7/11), ARID1A (4/11), RNF43 (4/11), CDKN2A, SMAD4, EGFR (3/11); MAP2K1, ERBB4, TGFBR2, MET (2/11); BRAF, AKT1, CTNNB1, STK11, PTEN, ALK, FGFR1, FGFR2, FGFR3, DDR2 (1/11))。これら合計21病変(19症例)の遺伝子、融合遺伝子解析より見えてきたKRAS変異(-)膵癌・IPMNの特徴として①colloid癌における融合遺伝子の関与(2/4)、②通常型膵管癌では稀なドライバー遺伝子変異AKT1遺伝子変異の関与(2/4)である。これらの異常はIPMNにおいても稀であるため、KRAS変異陰性膵癌、特にcolloid癌の発生に関連する異常であることが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
この10例の解析で検出した融合遺伝子や遺伝子異常の、KRAS変異陰性膵管癌における発生頻度と分布をみる必要がある。2022年度は、KRAS変異陰性膵癌の症例を追加し、検証することを計画している。当センターでは主にEUS-FNA検体で膵管癌と病理診断された1394例に対してKRAS遺伝子変異解析を行っており、このうち66例のKRAS変異陰性症例がある。このコホートを用い、上記の遺伝子解析で明らかにされた分子異常(遺伝子変異 BRAF, AKT1)、融合遺伝子(ALK, BRAF, FGFR2, NRG1)の頻度と分布について検証実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度研究から新たな知見が得られたが、本研究の科学的価値を高めるため、この結果を検証する必要が生じた。残りの助成金を用いて次年度に追加実験を行う。 具体的には、当科では主にEUS-FNA検体で膵管癌と病理診断された1394例に対してKRAS遺伝子変異解析を行っており、このうち66例のKRAS変異陰性症例がある。このコホートを用い、上記のNGS解析で明らかにされた分子異常(遺伝子変異 BRAF, AKT1)、融合遺伝子(ALK, BRAF, FGFR2, NRG1)の頻度と分布について調べる。
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