研究課題/領域番号 |
19K07436
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
内田 智久 大分大学, 医学部, 助教 (70381035)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヘリコバクターピロリ / 萎縮性胃炎 / インドネシア / 胃がん |
研究実績の概要 |
Helicobacter pylori (ピロリ菌)感染による慢性炎症の持続、特に萎縮性胃炎が胃がん発症に重要な役割を果たしている。アジアの胃がん発症率は国・地域によって大きな差があり、特に、インドネシア、タイでは胃がん発症率は本邦の1/10以下と非常に低い。本研究では、世界的に胃がんの少ないインドネシアの胃粘膜に着目し、新たにフィールドワークで得た生検組織、同時に採取した血清検体により、慢性萎縮性胃炎を詳細に検討することで胃がんにつながる胃粘膜の病態解析を行い胃がん発症が少ない原因を明らかにする。さらに、ピロリ菌病原遺伝子の解析と合わせて、これまで蓄積したアジアのデータと統合してアジアの胃がん発症率の多様性の原因を明らかにすることを目的として、以下の研究をおこなった。 これまでに採取したインドネシア全土で採取された胃生検組織を用いて、インドネシアの胃粘膜疾病構造の解明を試みた。解析可能であった1053検体のうち、ピロリ菌陽性は10%(106例)、陰性は90%(947例)。ピロリ菌陽性者の全例が組織学的胃炎を呈したのに対して、ピロリ菌陰性者では、胃炎は40%にしか確認されなかった。この結果は、インドネシアにおいても、ピロリ菌感染が胃炎のリスクファクターであることを示している。さらに、急性胃炎を詳細に検討したところ、胃体部胃炎9.5%、幽門部胃炎76.4%、汎胃炎14.0%であった。慢性胃炎においても同様の傾向が見られた。胃がんのリスクは一般に、胃体部胃炎>汎胃炎>幽門部胃炎とされており、インドネシアにおける胃がん発症率の低さと胃炎が幽門部に限局していることの関連性が示された。 胃粘膜の萎縮をOLGAシステムで分類したところ、インドネシアでも胃がんのリスクの高い民族(Timor族)では、高スコアであり胃粘膜萎縮と胃がんの関連が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、I. インドネシア全土から採取した胃生検組織の解析によるインドネシアの胃粘膜疾病構造の解明のうちi) 1,236症例の生検検体(Antrum 1個、Body 1個)の病理組織標本、ii) 自ら開発した東アジア型CagA抗体(東アジア型CagAを有するピロリ菌は病原性が高いとされている)を用いた免疫染色を行い、インドネシアにおける高病原性ピロリ菌の感染頻度を明らかにする。iii) updated-Sydney systemのデータを元に、Operative Link on Gastritis Assessment (OLGA)解析を行い、胃炎のステージ分類を行う。iv) 以上の解析で得られたデータから統計解析を行い、インドネシアの胃粘膜病変に関連する因子を明らかにし、胃粘膜疾病構造を明らかにする。のうち、ii)を除いて完遂することができた。 ペプシノーゲン法(PG法)による血清学的胃粘膜解析は2019年度末時点で、進行中であり、全体的に「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行中の、ペプシノーゲン法(PG法)による血清学的胃粘膜解析を2020年度も継続して実施するとともに、当初予定していたi) ピロリ菌遺伝子解析、ii) Multi Locus Sequence Typing(MLST)解析等を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ペプシノーゲン法(PG法)による血清学的胃粘膜解析等の一部の実験が、2020年度に持ち越しになったため。 従来予定していた研究と合わせて遂行する予定である。
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