研究実績の概要 |
現在、肺腺癌ではEGFR,ALKなど相互排他的なドライバー変異に対する分子標的治療が一定の効果をあげているが、その多くはTTF-1陽性のtermnal respiratory unit(TRU)由来の腺癌(TRU-type)であり、Non-TRU typeの治療ターゲットとなるドライバー変異は未だ見出されていない。本研究は、肺腺癌細胞株、原発性肺腺癌を用いて、non-TRU type肺腺癌の発生、進展の分子機構を解明し、Non-TRU typeの肺腺癌のあらたな治療ターゲットを見出すことを目的としている。細胞株の解析から、Non-TRU type肺腺癌において、TFF-1(trefoil factor-1)が高発現していることに気づき、かつ、TFF-1陽性腺癌は、HNF4α陽性の異常な胃腸上皮分化を示す腺癌で特徴的であり、kRAS変異を高頻度に有していた(Matsubara et al. 2020, Cancer Sci)。また、TFF-1は、アポトーシス抑制に関与し、かつ、予後不良因子であることを示した。また、肺腺癌において、接着分子CADM1が、Hippo pathwayのcore factorであるMST1/2, LATS1/2などと、細胞膜において、複合体を形成し、hippo pathwayを介して、腫瘍抑制に働くことを示した(Matsubara et al, 2019, Cancer Sci)。最終年度においては、HNF4αの発現を抑制することで、TFF-1の発現が低下することから、TFF-1の上流にはHNF4αが存在することを見出した。さらに、低接着培地において、肺腺癌細胞株を浮遊培養することによって、TFF-1の発現が高まることを示した。non-TRU type肺腺癌の代表格ともいえる、HNF4α陽性肺腺癌において、tumor spreading airspaceや、経気腔的な肺内転移巣などの組織学的な特徴の背景に、TFF-1が絡んでいる可能性が示唆された。
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