Epstein-Barr(EB)ウイルスは初感染後、B細胞に潜伏感染して免疫低下状態でリンパ増殖性疾患や悪性リンパ腫の発症に関与するが、発症機構には不明な点も多く、悪性リンパ腫発症の高リスク群の特定に基づいた診療体制も十分ではない。申請者らは最近の研究で、ウイルス感染という特殊な環境下では、CD30からのシグナルが染色体異常を誘発することを示唆した。 EBウイルスが感染したB細胞(リンパ芽球様細胞株:LCL)ではEBウイルス由来蛋白latent membrane protein (LMP)-1を介してCD30が誘導されることを示し、CD30からのシグナルを継続的に入れたLCLでは染色体の多倍体化や細胞の大小不同が起こっていた。これらは、EBウイルス感染B細胞においてウイルスに由来するLMP-1により誘導されたCD30は、単に感染細胞の増殖を促すだけでなく、腫瘍化へも関与しうることを示唆する。 樹立した2 種類の LCLを各々CD30Lの刺激の有無で2群に分け、1ヵ月間培養し回収する(各々N=3)。回収したLCLからDNAを抽出してアレイCGH によりゲノム異常を網羅的に解析した。その結果、CD30により誘発されるゲノム異常、ZCCHC11、HPS3、NEUROG2、SEC63、MTBP、SYK、KNDC1、EFNB2、PKN1を特定した。 一方、RNA-sequenceを行い遺伝子発現の変化を網羅的に検討した。その結果、CD30により誘発されたゲノム異常に含まれる遺伝子としてSYK (spleen associated tyrosine kinase) の発現抑制を同定できた。現時点でゲノム異常との関連は明らかにできていないが、EBウイルス感染Hodgkinリンパ腫細胞との比較を行い、EBウイルス感染細胞の腫瘍化のメカニズムの解明が今後の課題となると考えられた。
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