研究課題
精巣胚細胞腫瘍は始原生殖細胞を起源として発生する悪性腫瘍で、希少がんかつAYA (Adolescent and Young Adult)世代のがんである。正常発生・分化の諸段階を模倣する腫瘍内分化を示し、発生進展過程にはエピジェネティクスの寄与が示唆される。ホルマリン固定パラフィン包埋標本からマイクロダイセクション技術を用いて胚細胞腫瘍組織を組織亜型ごとに切り分け、イルミナ社Infinium BeadChipを用いてゲノム網羅的DNAメチル化解析を行った。主成分分析では各組織亜型は集簇して分化過程の順に分布し、セミノーマは胎児性癌により近い症例 (Sem2)と遠い症例 (Sem1)の二群に分かれた。Sem1とSem2について形態学的観点から核の大きさ・核形不整の程度・核分裂像の多寡・細胞質の好酸性・リンパ球の浸潤の程度・間質増生の6項目を評価したが、いずれの項目においてもSem1とSem2の間に有意な差は見られず、これらは分子生物学的に識別されるものと考えた。セミノーマから胎児性癌への分化に寄与しSem1とSem2で有意に異なるDNAメチル化プロファイルは、主としてSem2における著しいDNAメチル化亢進であり、非CpGアイランドやgene body、非遺伝子コード領域など、染色体安定性保持に重要である領域で先行して生じていた。一方で発現変化に帰結し得るDNAメチル化変化を示す遺伝子も同定し得た。これらの遺伝子のDNAメチル化の変化やmRNA・蛋白発現は、Sem1とSem2を識別し、腫瘍の悪性度評価や治療選択に繋がる診断マーカーとして有用な可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
Rを用いた統計学的解析により、組織亜型ごとのDNAメチル化プロファイルを俯瞰した。二種類のセミノーマを識別し、腫瘍の悪性度評価や治療選択に繋がる診断マーカー候補となる複数のゲノム部位・遺伝子を取得している。本研究の検証に用いる検体の供与元になる予定の広域コンソーシアム・バイオバンクの構築を進めており、既に複数施設からの定常的な検体登録が行われている。
診断マーカー候補であるゲノム部位のDNAメチル化状態の精密定量や、リアルタイムPCR・免疫組織化学による遺伝子発現の評価方法を確立する。これらの方法を用いて多数のセミノーマ検体を評価して2群に分け、先行研究から予測される2群のセミノーマの悪性度・予後の違いを確かめる予定である。
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