研究実績の概要 |
遠隔転移病変を有する大腸癌患者の5年生存率は依然として20%程度と低い。腫瘍が転移能を獲得する際の特徴の1つとして上皮間葉転換EMTが知られており、ビメンチンはEMTのバイオマーカーとして実臨床で用いられている。さらに、腫瘍が浸潤する際の前線invasion frontにおける細胞ストレスはビメンチンをリン酸化する。 2011年-2015年の間に当院消化器外科で原発巣と転移巣の両方の切除手術を行った患者検体(n = 22)において、リン酸化ビメンチンの免疫染色を施行したところ原発巣では68%(15/22)、転移巣では91%,(20/22)で陽性であり、正常の大腸組織には陰性であった。このためリン酸化ビメンチンをがん免疫療法の標的として使用する有用性が示唆された。 原発巣と転移巣の患者検体においてHLA-DRの免疫染色を施行したところ、原発巣では45%,(10/22)、転移巣では27%,(6/22)で陽性であり、実臨床においてもヘルパーT細胞が腫瘍退縮に関与しうる対象となる患者数が一定以上存在することが示唆された。 更に大腸癌患者6例の末梢血を用いリン酸化ビメンチンエピトープペプチドで刺激すると、末梢血内にリン酸化エピトープペプチドに反応性を有する前駆細胞の存在が確認され、これらの反応性は抗MHCクラスⅡ抗体により抑制された。 以上より、我々が同定したリン酸化ビメンチンヘルパーエピトープペプチドが生体内で抗原特異的なヘルパーT細胞を誘導し、これらは腫瘍拒絶に関与する可能性があり、リン酸化ビメンチンが新たな免疫治療の標的分子となる可能性が示唆された。
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