研究課題/領域番号 |
19K07455
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
柴 綾 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (50708427)
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研究期間 (年度) |
2021-01-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肺腺癌 / アポトーシス / ミトコンドリア / OCIAD2 |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに浸潤性肺腺癌においてミトコンドリアに局在するタンパク質OCIAD2が過剰発現していることを見出した。OCIAD2は正常肺では発現がないため非常に腫瘍特異性の高い遺伝子であり、高発現群は低発現群に比べて予後不良で、肺腺癌において何らかの機能を持つことが示唆される。本研究ではOCIAD2のミトコンドリアにおける機能に焦点を絞り、OCIAD2を発現抑制した肺腺癌細胞を用いて増殖やアポトーシスに与える影響をin vitroで解析する。 予備実験から、進行肺腺癌由来のA549細胞ではOCIAD2をノックダウンすると細胞数が減少し、アポトーシス誘導が起こることがすでに示唆されている。そこで「OCIAD2は肺腺癌細胞においてミトコンドリアに起因するアポトーシスを抑制することにより、細胞数増加を引き起こしている」と仮説を立てた。OCIAD2の局在を複数の細胞株で確認し、siRNAによりOCIADをノックダウンした場合のフェノタイプ変化を解析することで仮説を検証する。 さらに、ミトコンドリアダイナミクス(分裂・融合)、アポトーシス誘導に着目し、OCIAD2が関わっている可能性を蛍光免疫染色、電子顕微鏡法、ELISA法などで検証する。最終的にはミトコンドリア制御因子との結合を試験することでOCIAD2機能の分子機序の一端を明らかにし、浸潤性肺腺癌におけるOCIAD2過剰発現の機能的意義を見出す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
始めに進行肺腺癌細胞株3株、不死化上皮内癌細胞1株、不死化正常気管支上皮細胞1株を用いてOCIAD2発現解析を実施し、mRNAレベル、タンパク質レベルともに正常細胞や上皮内癌に比べて進行肺腺癌細胞で発現が高いことを確認した。さらに、凍結ヒト肺腺癌組織と正常肺組織のペア検体8症例を用いてwestern blottingを実施し、ヒト組織においても正常と比較して腺癌組織で発現が高いことも確認できた。 次にOCIAD2の肺腺癌細胞における細胞内局在を改めて確認するために、KRAS変異腺癌細胞株A549、EGFR変異細胞株HCC827を用いてタンパク質分画法によりミトコンドリア分画と細胞質分画のたんぱく質を抽出し、OCIAD2抗体にてwestern blottingを実施した。その結果、両方の細胞株においてOCIAD2はミトコンドリア分画のみでバンドが見られ、ミトコンドリアに局在することが確認できた。さらに、膜分画においてもOCIAD2タンパク質が検出され、このことからOCIAD2はミトコンドリア膜に局在することが示された。ミトコンドリアマーカーであるTom20抗体とともに蛍光免疫染色を実施すると、2者の共局在も確認できた。 さらに、siRNAを用いてOCIAD2をノックダウンした細胞をTEMで観察すると、ミトコンドリアの形態が明らかに異なっていることがわかった。具体的には1細胞当たりのミトコンドリア数、1ミトコンドリア当たりのクリステ数がOCIAD2ノックダウンにより顕著に減少し、OCIAD2はミトコンドリアの形態維持や機能に何かしらの働きを持っていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きOCIAD2ノックダウン後の細胞のフェノタイプ変化を解析する。今年度は細胞増殖能(Cell count法、WST-8法)、S期細胞数(FACS法)、アポトーシス(Caspase-3/7活性測定法、Annexin V発現測定法)などを試験する。また、Mtに由来するアポトーシス誘導経路はチトクロームc放出を発端とするため、western blottingにてOCAD2ノックダウン後のチトクロームcの局在を解析し、放出量を比較検討する。 また、Mtダイナミクスへの影響を解析するために、分裂のマーカーとなるDRP1、融合のマーカーであるOPA1の共蛍光免疫染色を行い、細胞内で分裂と融合のいずれが優位にあるか試験する。また、DRP1の発現をWestern blot法で解析し、細胞内の分裂の活発度をコントロールと比較検討する。 OCIAD2とMt分裂やアポトーシスとの関係が示された場合は、その分子機序を明らかにするために、肺腺癌細胞のMt分画タンパク質を用いてOCIAD2抗体で共免疫沈降を行い、OCIAD2結合タンパク質を収集する。分裂制御因子であるDRP1と結合している可能性を、Western blot法で検証する。 チトクロームc放出は、Bcl-2が抑制的に、Baxが亢進的に制御している。上記2でチトクロームc放出量との相関が見られた場合は、OCIAD2がこれらのBcl-2ファミリーと協同する可能性を検証するため、OCIAD2結合タンパク質にBcl-2ファミリーが含まれているかWestern blot法で解析する。結合が見られた因子やその関連経路との関連を考察し、発現解析や半減期の解析などで検証する。上記の既知Mt制御因子との結合が見られなかった場合は、OCIAD2結合タンパク質をLC-MS/MS解析しタンパク質の同定を行う。
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