研究課題/領域番号 |
19K07458
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
佐藤 保則 金沢大学, 医学系, 准教授 (30324073)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 人体病理学 / 肝臓 / 胆管細胞 / 肝線維嚢胞性疾患 |
研究実績の概要 |
3年計画の2年次に相当する本年度は,ヒトCaroli病(Caroli disease, CD) + 先天性肝線維症(congenital hepatic fibrosis, CHF)の胆管拡張におけるNotchシグナル伝達系の関与を免疫染色で詳細に検討した.ヒトCD + CHFの病理組織標本を用い,免疫染色によりNotchレセプター(4種類;Notch1-4),Notchリガンド(5種類;Jagged1-2,DLL1-3),Notchエフェクター(1種類;Hes1),Notchエフェクター標的分子(1種類;cyclin D1)に関する発現解析を行った.対照としてCHF,および類縁の肝疾患である多嚢胞肝(polycystic liver disease, PLD),von Meyenburg complex(VMC)の病理組織標本を使用し,得られた結果を比較検討した. Notchレセプターのうち,Notch1は検討したCD + CHFとPLDのすべての症例の胆管細胞で活性化を認めた.これに対応して,胆管細胞の核におけるHes1の発現も全てのCD + CHFとPLDの症例で認めた.胆管細胞におけるNotch1の活性化とHes1の核発現は,CHFとVMCではほとんど認めなかった.Notchリガンドの中でDLL1の発現がCD + CHFとPLDの胆管細胞で有意に亢進しており,これが両疾患においてNotch1-Hes1を介したシグナル伝達が亢進している理由の一つと考えられた.Notchエフェクター標的分子のcyclin D1の発現もCD + CHFとPLDで有意に亢進していた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CDは肝内胆管の多発性,進行性の拡張を示し,胆管細胞の過剰な増殖が胆管拡張の主要な原因の一つである.また,CDは高頻度にCHFを合併し,この場合は胆管拡張とともに進行性の肝線維化を来す.本研究はCD + CHFの胆管拡張と肝線維化を同時に抑制する新規治療法の開発を目指し,「胆管細胞に人為的に細胞老化を誘導することで過剰な細胞増殖が抑制され,かつ,老化した胆管細胞が細胞老化随伴分泌現象(senescence-associated secretory phenotype, SASP)として細胞外マトリックス分解酵素などを分泌して肝線維化が軽減される」という仮説のもと研究を進めている.具体的には胆管の形成に重要な役割を担うNotchシグナルに着目した検討を行っている.一般にNotchシグナルの亢進は細胞増殖を促進、Notchシグナルの抑制は細胞老化を誘導するとされている.本年度の研究でヒトCD + CHFの胆管細胞において,Notch1-Hes1を介したシグナル伝達が亢進していることを明確にすることができた.本年度の研究成果は論文としてまとめ,現在,英文雑誌に投稿中である.当初の研究予定はおおむね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で,CD + CHFの動物モデルとして確立されたpolycystic kidney(PCK)ラットを用い,in vitroとin vivoで胆管細胞においてNotch1-Hes1を介したシグナル伝達の亢進があることを示した.さらに,PCKラットの培養胆管細胞にNotchシグナル阻害剤(FLI-06)を作用させると細胞増殖活性が有意に低下することを確認した.本年度の研究で,ヒトCD + CHFの胆管においてもNotch1-Hes1の活性化があることを確認し,このシグナル伝達系を抑制することでヒトにおいても胆管細胞に細胞老化が誘導されうる可能性を示した. 今後,PCKラットの培養胆管細胞にNotchシグナル阻害剤(FLI-06)を作用させ,細胞増殖の抑制に加えて細胞老化とSASPが誘導されるかどうかをin vitroで検証する.最終的にPCKラットにin vivoでNotchシグナル阻害剤(FLI-06)を投与する実験を行う予定である.In vitroの検討結果から期待される肝内胆管の拡張や肝線維化を抑制する効果があるかどうかをin vivoで検証し,CD + CHFに対する新たな治療法となり得るかどうかを明確にしたい.
|