Caroli病 + 先天性肝線維症の確立された動物モデルであるpolycystic kidney(PCK)ラットを用い,肝内胆管拡張におけるNotchシグナル伝達系の関与をさらに詳細に検討した。PCKラットと正常(SD)ラットの肝臓組織切片に対して,免疫染色によりNotch関連分子の発現解析を行った。検討したNotchレセプターのうち,Notch1とNotch4は正常ラットと比較してPCKラット胆管細胞で活性化を認めた。これに対応して胆管細胞の核におけるHes1の発現もPCKラットで亢進し,Notchリガンドの中ではDLL1の発現がPCKラット胆管細胞で亢進していた。以上の成績は,昨年度に検討したヒトCaroli病 + 先天性肝線維症における免疫染色の結果と概ね一致していた。 次いで,PCKラットと正常ラットの培養胆管細胞を用い,Notchシグナル伝達系の阻害実験を行った。まず,肝臓組織切片を用いた検討と同様に,PCKラットの培養胆管細胞でNotch1とNotch4,Hes1の核発現の亢進があること,およびDLL1の発現亢進があることを蛍光免疫染色で確認した。Notch阻害剤であるFLI-06(2 μM)を培養胆管細胞に投与すると,PCKラット培養胆管細胞の核におけるHes1の発現が低下し,これとともに細胞増殖活性が有意に抑制された。この細胞増殖活性の抑制は,培養胆管細胞のアポトーシス亢進を伴うことがTUNEL法による検討で示された。しかし,当初の予測に反して,FLI-06によるNotchシグナル伝達系の阻害は,PCKラット培養胆管細胞における細胞老化を誘導しないことがSA-β-gal活性の測定で示された。加えて,細胞老化の誘導因子であるp16の発現をELISA法で検討した結果, PCKラット培養胆管細胞におけるp16の発現はFLI-06投与により影響を受けなかった。
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