研究課題/領域番号 |
19K07468
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
三上 修治 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20338180)
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研究分担者 |
水野 隆一 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (60383824)
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60445244)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 腎細胞癌 / がん微小環境 / 免疫チェックポイント分子 / VEGF / 治療抵抗性 / PD-1 / PD-L1 |
研究実績の概要 |
背景:腎細胞癌の薬物療法はVEGFやmTORを阻害する分子標的療法の導入により大きく進歩した。しかし、一部の患者は最初からこれらの薬剤に治療抵抗性を示し、当初、薬剤による効果が確認された症例でも治療開始後、数か月で治療抵抗性が獲得されることが多い。腎細胞癌は分子標的治療により完治することは極めてまれであるため、腎細胞癌の治療の目標は再発を抑え、生存期間を延長することであると考えられていた。このような背景のもと、本研究では治療効果予測・治療抵抗性を示す指標の確立を目的として腎細胞癌のがん微小環境の分子機構の解析を始めた。 結果:腎細胞癌ではVEGF-TKIを中心とした血管新生阻害による腫瘍の増殖抑制が治療の中心を占めていると考えられているが、我々のin vitroの実験では、腎細胞癌由来細胞株に代表的なVEGF-TKIであるスニチニブを添加して培養しても腫瘍細胞のviabilityに大きな変化は見られなかった。一方、ヒト胎盤静脈内皮細胞株(HUVECs)にスニチニブを添加するとアポトーシスが増加した。この結果から、VEGF-TKIは腎細胞癌組織の血管内皮細胞を障害して癌細胞の増殖を抑制していると考えられる。しかし、腎細胞癌組織内にはVEGF-TKI耐性を有する血管制御因子VASH1陽性の血管内皮細胞がみられ、残存したVASH1陽性の血管内皮細胞周囲の癌細胞が増殖することで次第にVEGF-TKIに耐性となると考えられる(Pathology International 2020)。 考察:VEGF-TKI治療によって壊死に陥った癌細胞由来の腫瘍抗原が免疫細胞に認識されるものの免疫チェックポイント分子により免疫反応が抑制されている。VEGF-TKI治療後の二次治療または併用療法として免疫チェックポイント阻害剤治療を行うことが効果的と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
[研究実績の概要]において記載した様に既に論文として発表した研究成果(Mikami S, et al., Pathology International, 2020等)に加えて、泌尿器科と共同で腎細胞癌手術検体からtissue microarrayを作製するとともに臨床データ、病理学的所見のデータベースの作成を終了し来年度の大規模かつ網羅的な分子解析の基盤整備が完了している。 昨年度および今年度の成果により、腎細胞癌の分子標的治療、免疫チェックポイント阻害剤に対する耐性に関与することが疑われる候補分子のスクリーニングも順調に進んでいる。即ち、来年度の迅速かつ効率的な解析が可能とする体制が既に整備されている。 また、病理組織像・染色結果の客観的な解析のためAi解析も行えるように他施設の研究者との協力関係の構築を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
近年、PD-1, PD-L1, CTLA-4等の免疫チェックポイント分子を特異的に阻害する薬剤(免疫チェックポイント阻害剤)が切除不能の腎細胞癌の治療に導入され、一部の症例では著明な治療効果が確認されている。しかし、治療適応の基準は組織型、リスク分類および前治療の有無などによって決定されており、腎細胞癌の治療適応を決定するコンパニオン診断は確立されていない。 免疫チェックポイント阻害剤の適応を決めるコンパニオン診断の確立には、免疫チェックポイント分子を誘導する分子機構の解析が必須であると考えられる。来年度の研究では、本年度に作製した腎細胞癌組織のtissue microarrayを用いて多数の腎細胞癌症例を解析し、免疫チェックポイント分子の誘導に関与する分子機構を特定し治療効果や臨床病理学因子との相関を調べる。 また、近年、従来の分子標的治療薬よりも優れた治療効果を示す新たなVEGF-TKIであるカボサンチニブが腎細胞癌の治療に導入されている。カボサンチニブと既存のVEGF阻害剤の違いはカボサンチニブがVEGFRに加え、axl, c-metを阻害することであるが、これらの分子発現と治療効果の関連は不明である。来年度の研究では、カボサンチニブの治療適用指標の確立に向けたデータについても蓄積、解析し発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
①コロナウイルスの世界的な感染拡大に伴い国内・国外出張が不可能となったため、計画立案時に予定していた成果発表の学会出張を取りやめ研究課題の遂行、データ解析を集中して行った。 ②研究計画はむしろ順調に進んでおり、既に論文を発表している(Mikami S, et al, Pathology International, 2020, 他)。また、今年度の成果により腎細胞癌の薬物治療の耐性に関与するがん微小環境が特定されつつある。来年度は既に作成済みの腎細胞癌のtissue microarrayを用いて治療耐性に関与していると予測される複数の分子発現を検討し、解析を進める予定である。 ③腎細胞癌の薬物治療に対する耐性機構の分子機構の解明のためには網羅的な分子解析が必須であるため、最終年度である来年度に資金を集中して複数の論文として発表、学会報告も行う予定である。
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