研究実績の概要 |
申請者はチェルノブイリ原発事故後の甲状腺癌症例, 国際的な組織バンク事業, 福島第一原発事故後の若年者甲状腺癌の分子病理学的研究に携わっている。本研究はチェルノブイリ周辺地域と本邦の自然発症と被曝関連の若年発症甲状腺癌, 4群の形態学的比較検討を行い, 若年被曝放射線誘発甲状腺癌の分子病理学的な特徴の解明を目的としている。主な検討項目は甲状腺乳頭癌の亜型分類, 腫瘍構成成分比率, リンパ節転移, 遠隔転移, MIB1 index, BRAF変異やP53発現頻度とした。 これまでにチェルノブイリ周辺地域と本邦の成人や小児若年者の自然発症性甲状腺癌の病理組織学的検討を行い報告 (Endocr J 2014,Endocr J 2017), 被曝関連症例として福島の県民検診事業症例の臨床病理組織学的検討を行ってきた (Cancer Sci. 2019)。今年度はチェルノブイリ事故関連若年者甲状腺癌, 自然発症性甲状腺癌, 本邦の自然発症性甲状腺癌, 福島スクリーニング症例, 合計748症例(ウクライナ410, 日本338)の病理学的特徴を年齢階層毎の解析を行った。チェルノブイリ小児症例では充実性成分が多く, 侵襲性が高度であった。本邦症例群間では形態学的には大きな差は認めなかったが, 福島症例では男女比が1:1に近く, 平均腫瘍径が小さかった (Thyroid 2021)。遺伝子プロファイルは福島県の乳頭癌症例とチェルノブイリ症例とは大きく異なっていた。チェルノブイリ症例では充実性成分が多くret/PTC変異を主とし,福島症例では乳頭状構造を主とする古典的乳頭癌が多くBRAF点突然変異を主としていた(Sci Rep 2015)。被曝群, 自然発症群ともに若年者甲状腺癌において, BRAF点突然変異は侵襲性の危険因子と関連は認めなかった (Cancers (Basel). 2021)。
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