我々はリゾホスファチジン酸 (LPA) 受容体であるLPA4とLPA6がYAP/TAZの機能を制御することを明らかにしており、本研究では、核内のYAP/TAZががんの進展制御に深く関与するDLL4発現を抑制する分子機序の解明を目的に研究を行った。血管内皮細胞(EC)特異的LPA4/LPA6の二重欠損マウスは、コントロールマウスと比較して新生血管先端領域においてYAPの核内移行が低下し、DLL4の発現量が増加していた。また、血管内皮細胞HUVECを用いた免疫沈降法やChIP解析により、YAP、β-カテニン、ERG、Notch細胞内ドメイン (NICD) それぞれの核内における複合体形成がその転写機能を制御する可能性を検証したが、その現象を示す明確な結果は得られなかった。しかしながら、Aktが促すβ-カテニンとNICDによるDLL4遺伝子発現誘導を、核内のYAPが抑制することを明らかにした。これらの結果から、血管内皮細胞のLPA-LPA4/LPA6シグナルはYAP/TAZの核内移行を促し、DLL4遺伝子の発現を制御することが示唆された。以上の成果を論文にまとめて、Journal of Clinical Investigationに公表した。次に、LPAによる腫瘍血管新生とがん進展制御の関与を明らかにするために、EC特異的LPA4/LPA6二重欠損マウスを用いて、C57BL/6マウス由来Lewis lung carcinoma (LLC) を皮下や尾静脈に投与する肺がんモデルマウスの解析を行った。しかしながら、皮下腫瘍や肺転移腫瘍の進展解析において、EC特異的LPA4/LPA6二重欠損マウスは非欠損マウスと比べて有意な差は得られなかった。現在はLPAのリンパ管新生作用に着目して、がん進展制御の研究を進めている。
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