正常扁平上皮を構成する細胞は常に更新され、絶妙なバランスで細胞数を維持することで恒常性が保たれている。構成細胞は基底部に存在する幹細胞が非対称分 裂を行うことで供給され、表皮に移動するに伴い増殖を止めて分化する。近年がんの発生には、その組織幹細胞に変異が蓄積することで、がん幹細胞が発生する ことが重要であると考えられている。しかしどのようなメカニズムで、がん幹細胞の発生、がんの発症、及び悪性化へ導かれるかは不明である。申請者はTsc-22 ファミリータンパク質の一つであるTHG-1の機能を解析する過程で、THG-1が皮膚、食道などの重層扁平上皮の基底細胞に発現することを見出した。次に食道がん 細胞21種でTHG-1をノックダウンすると、半数以上の細胞で増殖能が低下することを見出した。本年度はTHG-1によって獲得される幹細胞性(stemness)について検討したところ、THG-1によって幹細胞性の獲得に重要である転写因子SALL4とbeta-Cateninの蓄積が亢進することを見出した。beta-Cateninの蓄積はTHG-1をノックダウンした細胞株、及びそれをマウスに移植した腫瘍でも減少することが明らかになった。さらにこれら転写因子の標的遺伝子の発現についてもTHG-1ノックダウン細胞株で減少することが明らかになった。以上のことからTHG-1はSALL4やbeta-Cateninの蓄積を介して、腫瘍形成の促進に寄与することが明らかになり、各転写因子のユビキチン化制御を中心に解析を進めている。
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