研究課題
申請者らはメラノコルチン4型受容体(MC4R: melanocortin 4 receptor)欠損マウスを用いて非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: non-alcoholic steatohepatitis)・肝細胞癌モデルを確立し、MC4R欠損マウスとコラーゲンプロモーター下にGFP(green fluorescence protein)を発現するマウスを交配することでNASHの肝臓から活性化線維芽細胞を採取可能にした。肥満や発癌を伴わない肝線維化モデルとして四塩化炭素モデルの肝臓から採取した線維芽細胞、線維芽細胞の前駆体と考えられる肝星細胞を正常肝採取し、RNAシークエンス解析を行った。NASHの線維芽細胞では、他の2群と比較して癌関連パスウェイの活性化が認められた。その中で最も強く発現が誘導されたFGF9(fibroblast growth factor 9)に注目し、培養系における検討を行った。FGF9はTGFβ(tumor growth factorβ)やエンドトキシンでは変化がなかったが、飽和脂肪酸であるパルミチン酸によって発現が誘導された。FGF9は肝星細胞株であるLX-2において炎症性サイトカイン産生、および遊走能を亢進させた。また、肝癌細胞株であるHepG2においても遊走能亢進と抗アポトーシス効果を有していた。FGF9過剰発現LX-2とHepG2の皮下共移植実験では、FGF9によってTUNEL陽性細胞が減少し、腫瘍増大が認められた。以上から、NASHの線維芽細胞では癌関連パスウェイが既に活性化しており、肝細胞癌発症前から腫瘍促進性の微小環境を形成していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
従来、線維芽細胞には特異的な細胞表面マーカーがなく、線維化肝から単離することは技術的に困難であったが、コラーゲン産生細胞を追跡可能な遺伝子改変マウスの導入と、肝分散プロトコールの確立により、異なる肝線維化モデルにおける線維芽細胞の比較検討が明らかになった。定常状態の肝星細胞と比較して、NASHの線維芽細胞では細胞接着・細胞外基質・創傷治癒に関する遺伝子発現が亢進しており、線維化病態を反映できていると考えられた。四塩化炭素モデルの線維芽細胞で発現増加するものは、既に肝線維化において関与が示されている因子が多かったが、NASHの線維芽細胞で発現増加するものは線維化との関連が不明なものが多く、疾患特異的な活性化機構を理解する必要性が示された。
FGF9の発現は線維芽細胞特異的であるため、線維化を反映するバイオマーカーになる可能性がある。NASH発症に至る経時的サンプルを用いて、病態進展に伴う血中での変化を検討する。また、培養系において飽和脂肪酸によるFGF9発現誘導メカニズムを明らかにする。線維芽細胞特異的FGF9過剰発現、あるいは欠損マウスを作成し、NASH・肝細胞癌発症における病態生理的意義を検討する。
マウスの繁殖に時間がかかっているが、必要な準備は整っており、次年度に予定通りの研究計画を遂行できる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.riem.nagoya-u.ac.jp/4/mmm/index.html