研究課題/領域番号 |
19K07475
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 美智子 名古屋大学, 環境医学研究所, 客員研究者 (00581860)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / 細胞死 / crown-like structure / コレステロール / リソソーム |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: non-alcoholic steatohepatitis)では細胞死の増加が指摘されており、著者らは細胞死に陥った肝細胞をマクロファージが取り囲んで貪食処理する病理学的構造(CLS: crown-like structure)が炎症・線維化の起点となることを報告してきた。CLSは死細胞とマクロファージの相互作用の場であり、死細胞からのシグナルを受け取ってマクロファージがCD11c陽性へと形質変化すると考えられるがその詳細は不明であったため、本年度は死細胞によるマクロファージ機能変容の分子機構を検討した。CLS内部には肝細胞に由来する多量の脂質が存在するが、偏光顕微鏡観察によってその内部にコレステロール結晶が存在することを確認した。野生型マウスおよびNASHを発症したメラノコルチン4型受容体欠損マウスの肝臓からマクロファージを採取し、コレステロール含量を測定したところ、CLSを構成するCD11c陽性マクロファージのみでコレステロール含量の増加が認められた。複数の受容体あるいは貪食を介してマクロファージ内に取り込まれたコレステロールはリソソームにおいて処理を受けると考えられるが、CLSではリソソーム生合成を制御するMiT/TFE転写因子ファミリーの核内移行が認められ、コレステロール過負荷に伴うリソソームストレスの増強が示唆された。NASHのマクロファージを用いたマイクロアレイ解析においてもリソソーム関連因子がCD11c陽性マクロファージで発現増加しており、その1つであるカテプシンDの免疫染色を行ったところCLSに一致して陽性所見が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
著者らはCLS構成マクロファージは他の散在性マクロファージとは異なる遺伝子発現プロファイルを有する疾患特異的マクロファージ亜集団であることを提唱しており、その機能的特徴をもたらす死細胞由来のシグナル候補としてコレステロールが関与する可能性を見出した。NASHではコレステロール蓄積が認められることや、その中でもフリーコレステロール蓄積やコレステロール結晶が肝細胞死を誘導することが指摘されてきたが、本研究はその処理にあたるマクロファージに対する作用や病態生理的意義を明らかにすることで、コレステロールの有する脂肪毒性(細胞障害性)の理解に繋がると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
培養マクロファージに対してコレステロールを添加し、リソソームストレスを誘導する実験系を確立する。マクロファージの種類に応じて反応性が異なる可能性があるため、複数の細胞株や骨髄由来・腹腔内マクロファージ、肝クッパー細胞などを用いる。変性リポタンパク(酸化・アセチル化)やコレステロール結晶など、負荷方法によるリソソームストレス誘導の相違も検討する。コレステロール負荷時に発現が増加する線維化関連因子を抽出し、その発現制御メカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症による緊急事態宣言に伴って動物実験を一時的に大幅縮小したが、現在は交配も順調に進み、次年度は研究計画を遂行できる予定である。
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