研究課題
本研究では、炎症性腸疾患の粘膜治癒に対する遺伝子組み換え型可溶性トロンボモジュリン製剤(rsTM)の有効性の検討を行った。In vitro 評価系として、マウス小腸上皮から単離したクリプト(陰窩)をマトリゲル中3次元培養することで形成させたオルガノイドの初期成熟段階にrsTM(2 μg/mL, 20 μg/mL)を添加し、オルガノイド成熟の形態学的変化および腸管上皮遺伝子群の発現変化を調べた。rsTM処置群では、オルガノイドの成長が促進され、腸管上皮幹細胞と上皮細胞遺伝子群の発現が濃度依存的に上昇した。In vivo評価系として、デキストラン硫酸ナトリウム誘発性腸炎マウスモデルの回復期にrsTM(2 mg/kg, 20 mg/kg)を腹腔内投与し、臨床症状(体重減少・血便)の改善と生存率に対する効果を調べた。また、腸組織を回収し、病理組織学的検査並びに腸上皮遺伝子群の発現変化について確認した。20 mg/kg のrsTM治療群では、マウスの体重回復が促進され、組織学的にも腸炎が有意に改善され延命効果が確認された。また、腸管上皮幹細胞と上皮細胞遺伝子群の発現増加が見られ、組織修復に重要な因子であるlong non-coding RNA H19およびインターロイキン22の発現が有意に上昇することが確認された。以上より、rsTMは腸管上皮オルガノイドの成長を積極的に促すこと、また傷害された腸管粘膜の組織再生を促進する点で炎症性腸疾患に対する有望な治療薬となる可能性が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
2020年度の研究計画の内容に関して、デキストラン硫酸ナトリウム誘発性腸炎マウスモデルを用いたIn vivo検討により、遺伝子組み換え型可溶性トロンボモジュリン製剤(rsTM)が腸炎マウスモデルの体重回復を著しい促進し、組織学的にも腸炎を有意に改善し、延命効果を示すことが確認出来ている。また、rsTM処置したマウスの腸組織において組織修復に重要な因子であるlong non-coding RNA H19およびインターロイキン22の発現が有意に増強され、これら遺伝子の発現上昇が腸管上皮幹細胞の増殖・分化を誘導する可能性が示唆された。現在、得られた研究成果をまとめ国際雑誌に投稿中である。よって、おおむね順調に進展している。
今後は、トロンボモジュリン(TM)のドメイン変異体を用い、TMの構造ー機能の解析を行い、上皮再生促進機能を有するドメインを同定し、腸粘膜治癒を標的としたペプチド創薬の研究開発を進めて行く予定である。
新型コロナウイルス感染症の影響で研究会と学会出張できなかったため、次年度使用額が生じた。トロンボモジュリンのドメイン変異体タンパク合成と腸上皮再生への有効性検討に使用計画を立てている。
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すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 13件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (1件)
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