• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実施状況報告書

CRY1結合蛋白質の解析を基にした新規膵癌生成機序及び概日リズム制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K07498
研究機関山形大学

研究代表者

岡野 聡  山形大学, 医学部, 助教 (60300860)

研究分担者 佐藤 賢一  東北医科薬科大学, 医学部, 教授 (10282055)
中島 修  山形大学, 医学部, 教授 (80312841)
安井 明  東北大学, 加齢医学研究所, 加齢研フェロー (60191110)
研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード亜鉛 / 時計遺伝子 / 膵癌前駆病変 / 膵β細胞-膵管細胞 分化転換 / 脱分化 (dedifferentiation) / RGSタンパク質 / TFF2 (Trefoil factor 2) / 小胞体ストレス (ERストレス)
研究実績の概要

亜鉛結合部位変異型CRY1過剰発現マウス(以下TGと略記) 及び野生型マウス [いずれも19月齢] の膵島をサンプルとしたDNAマイクロアレイを実施したところ, TGでTFF2 (Trefoil factor 2)遺伝子の発現が亢進していることを見出した。膵島内での蛋白質の発現の分布を調べたところ,TFF2蛋白質は,膵内分泌細胞の内, β細胞にのみ発現することを見出した。intra-islet duct(膵島内膵管)のムチン産生性の細胞でもTFF2は強く発現していた。同齢の野生型マウスの膵島では,TFF2は観察されず, 若齢では野生型マウス,TG共に, TFF2は見られなかった。
膵β細胞株MIN6をKClで長時間処理し細胞内の亜鉛を減少させ, 細胞への影響を調べる実験では,前年度にChop遺伝子の発現亢進を報告した。今年度さらに解析を進め, 新たにBiP及びATF4の両蛋白質が増加することを示し,小胞体ストレスが惹起されることを明確にした。
以前の研究において,TGのβ細胞でRGS (Regulator of G protein Signaling)の発現が変化する結果を得ていることから (Okano S. 2016), MIN6の実験系おいて, 3種のRGS (RGS2, 4, 16)について,遺伝子発現と細胞内分布の変化を解析した。いずれのRGS遺伝子も発現が亢進した。亜鉛欠乏条件においてG蛋白質共役型受容体を介するシグナル伝達の改変が起こっていると推測される。RGS2蛋白質は分布が大きく変化し,一部のRGS2は翻訳開始因子のeIF2αと共局在した。RGS2は亜鉛欠乏条件で翻訳制御にも関与すると考えられる。
さらに,脱分化マーカーのaldh1a3遺伝子の発現を調べたところ,発現が亢進する結果を得,亜鉛欠乏でMIN6細胞に誘導される脱分化の特徴を,新たに明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

TFF2は主に胃の上皮に発現する。上皮組織の損傷修復に関与することが知られている。マウスにおいて膵臓の発生において重要であることも報告されている。膵管の異型である膵管腺 (PDG: pancreatic duct gland)でTFF2の発現が亢進することや, 成獣になると通常は, 膵β細胞にTFF2は発現しないことが報告されている。
今年度の解析から新たに,TGにおいては, 膵ラ氏島にintra-islet ductが多発する成獣のステージで, 膵β細胞においてTFF2が高発現することを明らかにした。同齢の野生型マウスの膵β細胞ではTFF2は観察されなかった。
intra-islet ductのムチン産生性細胞がTFF2を高発現することも示し, intra-islet ductはPDGと類似した特徴を有することも明らかにした。代表者は,TFF2は膵β細胞が膵管様細胞に分化転換する上で何らかの役割を果たすと推測し解析を進めている。
以上のように, intra-islet ductの分子的特徴づけに知見を得ることができた。
MIN6細胞の細胞内亜鉛を減少させる実験は,今年度は,代表者が従来から着目していたRGS蛋白質 (Okano S., J Diabetes Res. 3459246, 2016) を中心に実験を実施した。前年度の時計遺伝子の発現の解析結果と合わせて,ERストレス・脱分化誘導に際しての, 膵β細胞の細胞内の応答(シグナル伝達の改変, 及び分子時計への影響)を, 統合的に理解する上で一定の成果を得た。
成果の一部は, 米国糖尿病学会で発表するとともに(e-poster [2057-P]として学会期間後も当該学会web siteにて公開されている), アグリバイオ誌2020年7月臨時増刊号, 及び同誌 2021年2月号に解説記事を発表し, 科学コミュニティに広く発信した。

今後の研究の推進方策

上述のTFF2タンパク質は, TGの膵β細胞において細胞質に顆粒状に局在していた。ムチン産生性のintra-islet ductでもTFF2は発現しており, それらの細胞でもTFF2タンパク質の顆粒状の構造が観察された。この顆粒状構造の詳細についても解析を深めて, 明らかにする予定である。マイクロアレイデータを元にしたin silicoの解析から, 膵β細胞の機能不全や,「膵β細胞-膵管細胞」分化転換に関わると推測される, 複数の分子を特定したので, 優先順位をつけ順次機能解析を行う。
前年度の膵β細胞株の解析において, CRY1 が転写因子PDX-1 の量をタンパク質レベルで調節する可能性を示した。このPDX-1 と CRY1 の関係について明らかにする目的で, 東北大加齢研チームがHEK293 細胞株 (ヒト腎臓由来細胞株) 抽出液で免疫沈降実験を実施したところ, PDX-1 と CRY1の結合は見られなかった。この結果から, CRY の PDX-1 の制御は組織特異性があることが推測される。今後, 膵臓組織抽出液を用いた解析を検討する。
ヒト HEK293 細胞株の抽出液と CRY2 のリコンビナント蛋白質を用いて LC-MS/MS によるプロテオミクス解析を実施し, 翻訳後修飾に関わる酵素を含む, 複数のCRY2 結合候補蛋白質を特定した。現在, 相互作用を確認する実験を行なっている。これらのタンパク質がTGの病態進展に如何に関与するか, 解析を進める予定である。
MIN6細胞での細胞内亜鉛を減少させる実験系において, MIN6の脱分化様変化のさらなる特徴付けの実験を, 概日時計タンパク質の変化とも関連づけながら実施する。
引き続き, 長年にわたり継続している本研究グループ(クリプトクロム・時計遺伝子グループ)で, 大学の枠を超えた連携を強化し, 研究を一層推進させる。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナのパンデミックによる影響で, 研究の一時中断や, 教育のスケジュール変更にともない一部の実験が遅延してしまったこと等の理由により, 次年度使用額が生じた。
使用計画であるが,「今後の研究の推進方策」の項目に述べた方針に従って使用する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] 膵β細胞における亜鉛動態の変化に対する時計遺伝子とRGS蛋白質の応答 - シグナル伝達変換との関連 -2021

    • 著者名/発表者名
      岡野聡
    • 雑誌名

      アグリバイオ 2021年2月号「リン脂質の新たな代謝機構」

      巻: 5 ページ: 88 - 92

  • [雑誌論文] 時計タンパク質クリプトクロムと亜鉛 - 概日リズム,膵β細胞と膵癌前駆病変 -2020

    • 著者名/発表者名
      岡野聡
    • 雑誌名

      アグリバイオ 2020年7月臨時増刊号「時間栄養学」

      巻: 4 ページ: 83 - 96

  • [学会発表] 時計蛋白質CRY1のC414A変異体過剰発現マウスにおける膵島内膵管生成の分子機序の解析2021

    • 著者名/発表者名
      岡野聡, 安井明, 菅野新一郎, 佐藤賢一, 五十嵐雅彦, 中島修
    • 学会等名
      第51回日本膵臓学会大会
  • [学会発表] Atypical trefoil factor family 2 expressing β-cells of diabetic mutant CRY1 transgenic mice with intraislet ducts2020

    • 著者名/発表者名
      岡野聡, 安井明, 菅野新一郎, 佐藤賢一, 五十嵐雅彦, 中島修
    • 学会等名
      第80回米国糖尿病学会(80th Scientific Sessions American Diabetes Association )
    • 国際学会
  • [学会発表] 膵β細胞における亜鉛の動態変化が引き起こすストレスに対する転写因子MTF1とRGS タンパク質の応答2020

    • 著者名/発表者名
      岡野聡, 安井明, 菅野新一郎, 佐藤賢一, 五十嵐雅彦, 中島修
    • 学会等名
      43回日本分子生物学会・MBSJ2020

URL: 

公開日: 2021-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi