研究実績の概要 |
長年継続している, 大学組織の枠を超えた「CRY・時計遺伝子研究グループ」で下記の研究を実施した。 MIN6細胞 (膵β細胞株)をKClで処理し慢性高血糖を模倣した状態を実現して, β細胞にどの様な影響がもたらされるかを明らかにする解析については, RNA-seq解析とその結果を基にしたバイオインフォマティクス解析を行なった。β細胞機能に関わる経路の遺伝子群の発現低下が示され, 前年度までの研究成果をさらに支持する結果を得た。 MIN6細胞ではKClで処理により, 上皮系マーカーのE-cadherin遺伝子の発現が, 顕著に低下することを新たに明らかにした。上皮間葉転換(EMT)様の変化が起こっているものと思われる。 これまでに見出したCRY及びそのタンパク質複合体構成タンパク質(FAM98A, KPNA2)の膵癌形成における機能を明らかにすることを目的として, ヒト膵管癌細胞のEMTの誘導実験を行った。Panc-1細胞をリコンビナントBMP4で刺激し, 24h後にRNAを採取し, qPCR法で発現解析を行なった。対照の細胞と比較して, BMP4処理細胞ではE-cadherinの発現は低下し, Vimentin及びN-cadherinの発現が増加し, EMT誘導を確認した。Kpna2は変化せず, Fam98aは有意に増加した。時計遺伝子Per1,Per2, Cry1は変化がみられず, Cry2は発現が亢進した。膵癌細胞 EMT においてCry2 特異的な調節機構の関与が推測される。 亜鉛結合不全型CRY1-TGマウスにおける, 膵前癌病変生成機序や膵β細胞の他の内分泌細胞への分化転換の解析も並行して実施した。δ細胞とβ細胞の間で分化転換が生じる新たな結果が得られており, この成果は第82回米国糖尿病学会に演題が既に採択され, 2022年6月に岡野が筆頭演者として公表予定である。
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