当初、GRP94は腫瘍細胞表面に輸送され細胞膜にアンカー蛋白と伴に発現していると考えたが、細胞膜蛋白の抗GRP94抗体による免疫沈降では、有意なアンカー蛋白質候補を得ることはできなかった。ELISAによってGRP94が腫瘍の培養上清中に確認できたことから、GRP94がexocytosisなどで細胞外へ放出されていると考え、細胞膜にはexocytosisに伴う膜融合で一過性に発現されているだけではないかと仮説し、電子顕微鏡による観察を行なったが、上手くGRP94を確認することができなかった。蛍光免疫染色により、exocytosisマーカーのCD63とcalnexinが腫瘍に発現していることを確認できたが、GRP94との共存までは証明できなかった。 さらに、細胞外へ放出されたGRP94が、再度、細胞膜上のGRP94受容体に結合し、細胞表面に発現しているのではないかと仮説した。そこでGRP94の受容体として可能性のある、CD91とRAGEの腫瘍細胞表面での発現をFlow cytometerにより確認したところ、いずれの分子も細胞表面に発現していた。RAGEはHMGB1などの受容体であり、IL-6を含む炎症性サイトカインの発現を誘導することが報告されている。そこで腫瘍細胞上清中のIL-6をELISAで測定したところ、fresh mediumで78時間培養した場合はIL-6の発現は見られないにも関わらず、合成GRP94蛋白を加えたmediumで培養した場合は、IL-6の発現が確認できた。IL-6は樹状細胞の成熟障害や、癌環境下での免疫疲労に関与しており、腫瘍の分泌したGRP94がautocrineに働くことでIL-6を産生し、癌環境下での免疫疲労を誘導している可能性が示唆された。
|