研究課題
小胞体ストレス病態モデルであり膵β細胞が消失することで糖尿病を発症するWfs1欠損マウスでは、β細胞消失の原因として脱分化が関与している。本研究の目的は、Wfs1欠損マウスについて、細胞内ストレスに着目しβ細胞脱分化の成因を解明することである。これまでの研究成果より、Wfs1欠損マウスβ細胞では脱分化に先行して細胞内エネルギー代謝障害が認められ、小胞体ストレス亢進に伴って発現増強するストレス応答分子Thioredoxin-interacting protein (Txnip)がこのエネルギー代謝障害に寄与していることが示唆された。当該年度では、Txnipの脱分化への影響を明らかにするため、Wfs1:Txnip二重欠損マウスのβ細胞についてlineage tracing(運命追跡)を実施した。Wfs1-/-;RIP-Cre;Rosa26-YFPマウスおよびWfs1-/-;Txnip-/-;RIP-Cre;Rosa26-YFPマウスを作出し、β細胞をYFPで永久標識した。 Wfs1欠損マウスが高血糖発症前の20週齢と発症後40週齢でのマウス膵組織切片についてβ細胞分化マーカー抗体等を用いた免疫組織染色を行なった。Wfs1欠損マウスβ細胞は膵内分泌前駆様細胞へと脱分化していたが、Wfs1:Txnip二重欠損マウスでは脱分化が抑制されβ細胞量が維持されていた。また、Wfs1欠損マウス膵島で認められるグルコース応答性ATP産生および解糖速度、酸素消費速度の著明な低下が、Txnip欠損により回復した。さらに、50週齢までの観察においてWfs1:Txnip二重欠損マウス全個体において糖尿病の発症が抑制された。これらの結果より、Wfs1欠損マウスにおけるβ細胞脱分化にTxnipが関与しており、Txnipが細胞内ストレス亢進下での糖尿病に対する有望な治療標的となる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
おおむね想定していた実験結果を得られており、研究計画に沿って順調に遂行している。現在までに、Wfs1欠損マウスにおける糖尿病の発症およびその成因である膵β細胞の脱分化が、Txnip欠損により抑制されることを明らかにし、脱分化の治療標的となり得る分子を見出した。また、次年度以降も実施予定である脱分化の評価方法についても確立することができた。
Wfs1欠損マウス膵β細胞においてTxnipの発現を抑制することを既に見出している糖尿病治療薬の一種であるGLP-1受容体アゴニストExendin-4を用いて、薬理学的なTxnip抑制の膵β細胞脱分化と糖尿病進展の阻止効果を解明する。Wfs1欠損マウスにExendin-4を6週齢より4週間投与し、投与終了時点での膵β細胞機能および脱分化を評価する 。
当該年度の途中より産前産後休暇および育児休業の取得に伴い、研究を中断したため、次年度使用額が生じた。次年度実施予定であるマウス膵組織の免疫組織染色に必要な抗体などの分子生物試薬の購入に使用する。
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JCI Insight
巻: 6 ページ: e143791
10.1172/jci.insight.143791