研究課題/領域番号 |
19K07506
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
椎木 幾久子 (阿望幾久子) 山口大学, 医学部, 助教(寄附講座等) (60609692)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | β細胞脱分化 / β細胞不全 / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
膵β細胞において小胞体ストレスが亢進しβ細胞が進行性に消失することで糖尿病を発症するWfs1欠損マウスでは、β細胞消失の原因として脱分化が関与している。本研究の目的は、Wfs1欠損マウスについて、β細胞脱分化の成因を解明し、脱分化を標的とした糖尿病治療法を確立することである。これまでの研究成果より、Wfs1欠損マウス膵島では小胞体ストレス亢進に伴ってストレス応答分子Thioredoxin-interacting protein (Txnip)の発現が増強しており、Wfs1欠損マウスにおいてTxnipを欠損させるとβ細胞の脱分化および糖尿病の発症が抑制されることを明らかにした。また、Wfs1欠損マウス膵島では、脱分化の初期において細胞内のエネルギー代謝不全が認められ、Txnip欠損により回復していたことから、脱分化と細胞内エネルギー代謝の関連が推察された。 当該年度では、β細胞脱分化誘導におけるエネルギー代謝不全の意義を解明するために脱分化細胞の細胞内代謝特性を評価した。糖尿病発症前で脱分化初期にあたる10-12週齢のWfs1欠損マウス膵島のメタボローム解析データとRNA-seqデータを合わせて、エネルギー代謝の変化を評価した結果、Wfs1欠損膵島では、グルコースからのエネルギー産生に障害がある一方、脂肪酸酸化には変化がなく、グルコース利用の低下を代償するようにアミノ酸異化が亢進していることが明らかとなった。これらに関連するミトコンドリア機能障害はなく、pyruvate dehydrogenase (PDH)の活性低下によるピルビン酸からアセチルCoAへの変換障害が認められた。さらに、TxnipによるPDH活性抑制が認められた。Wfs1欠損膵島では、細胞内ストレス亢進によるエネルギー代謝制御機構が脱分化に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
産前産後休暇および育児休業の取得に伴い、研究を一時中断していたため、進行状況は当初の計画より遅れている。しかし、これまでの実験結果は想定していた結果を得られており、遅れてはいるものの研究計画に沿って遂行出来ている。現在までに、Wfs1欠損マウスにおける糖尿病の発症およびその成因である膵β細胞の脱分化が、Txnip欠損により抑制されることを証明し、脱分化予防の有望な標的分子を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
薬理学的なTxnip抑制による脱分化と糖尿病進展への予防効果を解明する。 Wfs1欠損マウス膵β細胞においてTxnipの発現を抑制することを既に見出している糖尿病治療薬の一種であるGLP-1受容体アゴニストExendin-4を用いる。Wfs1欠損マウスにExendin-4を6週齢より4週間投与し、投与終了時点での膵β細胞機能および脱分化を評価する。またWfs1欠損マウス膵島でのエネルギー代謝障害に対するExendin-4の改善効果も評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前産後休暇および育児休業の取得に伴う研究中断から復職後、研究再開するための準備に時間を要し進捗が遅れたため、次年度使用額が生じた。次年度実施予定であるマウス膵組織の免疫組織染色に必要な抗体などの分子生物試薬の購入に使用する。
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