研究課題/領域番号 |
19K07507
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
印東 厚 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (70779058)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | オルガノイド / 幹細胞 / 疾患モデル研究 |
研究実績の概要 |
本研究では外的要因などにより引き起こされる細胞の損傷を起因とする疾患の発症機序解明を目的とする。 昨年度までの研究において、環境汚染物質による発症機序の解析ツールとしてヒトiPS細胞から3次元的な構造を作成する技法を応用した (Ninomiya H et al, Chemosphere, 2020)。 また、環境汚染物質による皮膚がんへの影響の解析として、重金属暴露による上皮由来細胞の応答を解析し、その成果を現在論文投稿中である。この研究では細胞表面に発現する水分子チャネルを介した重金属の取り込みと、細胞内の重金属暴露によって引き起こされる腫瘍化の分子機序の一端を解明した。令和3年度においてリバイス実験および掲載受理を期待している。 さらに、疾患発症機序の分子レベルでのメカニズムを解明するため、上記成果を更に発展させたヒトiPS細胞やマウスES細胞由来の成熟組織の分化誘導法の確立、および疾患モデルの樹立に取り組んだ。特に上皮細胞は環境因子や病原因子の取り込みを行うことから、消化器官の上皮細胞様組織を有する成熟オルガノイドの作製法を検討した。培養条件の検討を重ねた結果、消化器官の腺構造に内包される終末分化細胞群のマーカー遺伝子発現を確認している。また、このオルガノイド培養液に環境汚染物質等の病原性因子を添加することにより、生体内で引き起こされる発症機序の再現を目指している。また、この際に生体組織内で起こる細胞内オルガネラの損傷や、それによる周辺組織への影響なども分子レベルで解析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は環境因子などによる細胞内の分子応答、及びそれを起因とする疾患発症機序の解明を目指して取り組んでいる。令和2年度までにおける研究の進捗状況は申請通り細胞レベル、生体レベルにおける影響を解析した。特にiPS細胞を用いて環境因子による正常な発生の阻害を試験管内で再現することに成功し、影響を受ける遺伝子群を同定した。また、原因遺伝子のノックアウトマウスの解析を実施した。特にヒトiPS細胞を用いた疑似成体組織であるオルガノイド研究は疾患モデル研究の新しいツールとして有用であり、より詳細な疾患発症機序の解析が期待される。2020年にその成果が国際学術誌に掲載されたことから、今後の研究にも積極的に取り入れていく。 以上のように予定していた解析を実施し、かつ発展させている状況から、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目までの業績として、iPS細胞由来の3次元組織を応用して環境汚染物質による発生異常を再現することに成功した。3年目も本研究の申請時の予定通りに研究を推進させつつ、特にヒトiPS細胞など幹細胞を利用した器官・組織の3次元構造の再現とその破綻モデルを確立し、環境因子や病原体成分による疾患発症機序について解析を進めていく。これにより、成体組織における疾患発症機序の詳細な分子機構の解析が期待される。環境因子等をオルガノイドへ添加することで、オルガノイド中に引き起こされる細胞内小器官の損傷や周辺組織の変調など、より詳細な解析を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID2019の影響により、予定していた海外学会への参加を取りやめ、また国内学会参加もオンラインにより行われたため、予定していた渡航費、滞在費等の一部を使用しなかった。一方で本研究で見つかった新しい候補遺伝子の解析に必要な試薬類の購入を充足させた。また、論文投稿準備が予定より早くに完了し、エフォートを論文執筆に割いたため消耗品購入が予定額より減少した。令和3年度においては解析を更に促進させるため、必要不可欠な試薬等の購入に充てる。
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