環境中の汚染物質などが関わる疾患の発症メカニズムを明らかにするためには、試験管内の疾患モデルの樹立が求められている。特に、環境汚染因子が引き起こす細胞内オルガネラの損傷に関する分子機序の解明は、その発症機序の深い理解を得るためにも必須の課題の一つである。 本年度ではこれまでの研究成果による疾患モデル(二宮ら、 Chemosphere. 2020; 250:126124)の解析を進展させ、より複雑な細胞組成、組織構成を有したヒトiPS細胞由来の内胚葉由来、中胚葉由来のオルガノイド作製条件の詳細な検討を終えた。特に、胃上皮細胞に内包される体性幹細胞や終末分化細胞群のマーカー遺伝子の発現量を検証することで、オルガノイドの成熟化条件検討を確定させ、目的とする疾患モデル解析のための研究ツールとしての有用性を高めた。更に本年度では、病原性因子由来のタンパク質の強制発現系を組み込んだオルガノイドを樹立し、病原性タンパク質によるオルガノイド上皮細胞における遺伝子発現の攪乱やオルガネラの状態変化について解析を進展させた。これらの解析で見出した遺伝子群について解析を行い、ヒトiPS細胞、および分化の初期段階において、強い発現上昇を確認した。ノックダウン解析などの結果から、これらの遺伝子群が幹細胞性や腫瘍形成に重要であることが明らかになった。また、当該遺伝子のひとつはヒトiPS細胞の未分化状態において特に活性化しており、幹細胞性と腫瘍化メカニズムが共通した分子シグナルを活性化していることを明らかにして本課題研究を終えた。 以上の成果を論文作成中である。
|